第四十九話 好きなタイプはどんな人?
夏休みになる前々日…つまりは一学期最後の登校日の前日。廊下にて待ち伏せされました。
「よぉ」
立ちふさがるように出てこられたので、立ち止まりましたがもちろん警戒はマックスです。
二歩下がって顔を見ましたが、どこかで見たことがあるような気がするものの、誰だかわかりませんでした。
「なんとか言えよ」
声もどこかで聞いたような……。
「おいって」
「はい」
「まさかわからないとか言わないよな?」
「えーと……もしかして若尾…君でしょうか」
相手がホッとしたようなのでどうやら間違ってはいないようです。
「何か用ですか」
「えっ、えーと。その、この前のこと謝ろうかと思って」
謝る人の態度とは思えないですが、まぁ良いでしょう。
「私に謝ってもらう必要はありません。ちなみに反省文を追加したのは私です」
「あんたか! 三度もダメだしされて暗くなるまで帰れなかったんだぞ! ってそうじゃなくて…」
はぁぁぁと深くため息をついて若尾君はその場にしゃがみ込みました。
「用がそれだけなら、失礼します」
「ちょっ、ちょっと待てって」
「まだ何か?」
「あの速水とかいうやつ…あんたの彼氏?」
「…速水君はあなたの先輩なのですから、速水先輩と言ってください。彼氏ではありません友人です」
「ふうん。あいつの腹筋は割れてるの?」
「さぁ、知りませんけど」
「……。あんた噂通りなんだな」
「噂?」
「まぁいいや。最後に一つ質問してもいいか」
「何ですか」
「あんたの好みのタイプってどんなやつ?」
好みのタイプ?
タイプタイプタイプタイプ…。
「明朝体とか行書体とかですか?」
「そっちのタイプじゃねえよ、どういう男が好きかって聞いてんの!」
「あんまり怒っていると、若いとはいえ血管切れますよ。血圧に注意してくださいね」
「あんた、それわざとか? ぜってえわざとだろ」
「せっかく心配しているのに」
「せっかくとかじゃねえ、はぐらかしてないで、さっさと答えろ!」
これ脅迫に入りませんかね?
微妙ですか?
「ありません」
「ああ、そうか…ってありませんって何だよ」
「ないんです」
「…はぁ!? 好きになったやつがタイプですとかほざく奴か!?」
「ほざ……言葉を慎んでくださいね。本当にこれと言って無いんです」
「今まで好きになったやつの統計とか…」
「統計と言われましても…いませんので」
「……はぁ? 一人も?」
別に初恋が無かったわけじゃないですよ?
でも小学生の低学年でしたし、何で好きだったか覚えてないんです。それは初恋じゃないと言われてしまえば、他はありません。
「優しい奴とかあるだろ」
「皆さん優しいですよ」
「……わかった。あんたバカだ」
「はい?」
「頭は良いけど、バカだな」
「なっ!」
鼻で笑われてとっても腹立たしいですが、丁度電話がかかってきたので反論しようとした出鼻をくじかれました。
「もしもし」
電話に出ると芹会長からです。帰ってくるのが遅いので心配してかけてきたようでした。
そうでした仕事中です。
「すぐに帰ります。それでは失礼します若尾君」
通話を切って若尾君がしゃがんだままの横を通って行こうとして、後ろから声をかけられました。
「決めた、あんたに俺がタイプだって言わせてみせる」
その言葉に返事をせずに、私は生徒会室へと急いで向かいました。




