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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第四十七話 酔っぱらいは脱ぎたがる?



「基準が身内しかいないってのはわかったけど、中学の時とかプールにいかなかったの?」

 次の日、前日の報告をした時に生徒会室で芹会長にそう聞かれて、私はいいえと答えました。

「行きましたけど。プールは中学校内にあるプールでしたので女子しかいませんでしたし、市民プールに行くこともなかったので。小学生の時は共学でしたけど、さすがに小学生ですし担任の先生は体育会系の方で腹筋割れてました」

「あぁ…うん。なるほど」

 そういえば友達とプールに行ったことありませんね。中学生の時は友人の和香と中学校内にあるプールにしか行きませんでしたし。

「温泉とかは?」

「混浴に入らないので」

「あぁ…うん。そうだね」

 浴衣を皆さん着ていますし、はだけると行っても胸あたりまでですよね。

 そんなことを考えていて、ふと数年前に行った北海道の温泉のことを思い出しました。香矢さんと千歌さん、私と父、そして龍矢さんと華さんの六名で温泉に行ったことがあったのです。

 そこで父と龍矢さんがお酒を飲んで暑くなったのか、浴衣の上の部分だけをはだけて手で扇いでいました。千歌さんと華さんが怒っていた記憶が残っています。

『陽向の前なんだから、止めなさい』

『ちょ、ちょっと、あなた! 張り合わなくていいから! もう酔っぱらってますね?』

 千歌さんが止めるのも物ともせず香矢さんも上を脱いだのでしたっけ。

 龍矢さんがそんなになるほどお酒を飲むことはめったにないので、酔っぱらった龍矢さんを見て面白いなーと思った記憶があります。

 暑がりな父ですので、夏だと上半身裸は当たり前です。外に出るときはさすがに着ますけれども。

「陽向ちゃんには、それが当たり前かぁ」

 一年生の二人は私の父を知らないので首を傾げています。

「ともかく、もう一度庭園の使用規定を知らせた方が良いかと。特にこれからもっと暑くなりますし」

「そうだね。男子が少ないとはいえ実際噴水に入る生徒がいたわけだし、そうしようか。康君、放課後手伝ってくれる?」

「はい、芹会長」

 朝のミーティングが終わって教室へ戻る時間となり、いつも通り階段を上って教室へ入るとクラスメイトに数名に囲まれてしまいました。

「な、何事!?」

「水崎さん、若尾君の裸見たって本当!?」

「わ、若尾君?」

 若尾君って誰でしょう。

「昨日の噴水騒動はもうあちこちに噂流れてるわよ。プールの清掃をするところまで」

 どこからの情報ですか、奈津子さん。

「若尾君って誰?」

「陽向さんにくってかかった一年生よ」

「あぁ、彼が若尾君」

 って奈津子さん、見てきたように言わないでください。本当にどこ情報なんですか。一度きちんと聞かないといけないような気がします。

「えーと、上半身だけよ」

「見たのねっ!?」

「……見ましたけど」

 キャーッと黄色い悲鳴が上がりました。

 ちなみに他三名は噴水の裏側にいたので、腹筋は見えませんでした。

「どんな感じだった?」

「どんなって…あの、若尾君ってそんなに有名なの?」

「一年で有名な男子の三本の指に入るわね。ちなみに後の二人は生徒会の二人よ」

「初耳」

「陽向さんは、そういうことに疎いものねぇ」

「……ソウデスネ」

「一年生の女子ならず、お姉さま方からも色々声をかけられているらしいわよ」

「はぁ…そうなんだ?」

 顔を思い出そうとしてみましたが、ぼんやりとしか思い出せずに首を傾げました。

「そういえば、自分でイケメンだって言ってたね。ちょっとどん引きだったんだけど」

 規定違反をしておいてイケメンを誇示したところで、どうにもならないと思うんですけど。むしろ、逆に好感度下がりますよ。

「なるほどなるほど。陽向さんの記憶に残るほどのイケメンではなかったと」

 なるほどぉとクラスメイトが頷いています。

「顔より腹筋見てましたし…」

「腹筋見たの!?」

「見たというか見ざるをえなかったというか。水泳部の水着じゃないなと思っていたから」

 水着から視線を上げるとどうしても腹筋に目が通りますよね。


「あぁ、若尾君は水泳部じゃないわよ?」



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