第四十四話 後藤田先生の逃亡です
職員室に向かう途中で一緒にいた康君が料理部の生徒に声をかけられ、お裾分けをもらいました。
クッキーでしたが二個しかなかったので二人で食べましたけど…良いですよね?
パンプキンシードが入っていてとても美味しいクッキーでした。
美味しかったねと話しながら歩いていると向かい側から先生が急いで歩いて来ます。
「あーそのー、水崎さんだよね」
「……はい。美少女お面の先生」
「…だいぶ時間もたってますし、そろそろ忘れてもらえませんか」
ドジっこ猫目先生でした。
「冗談ですよ、猫目先生。何かご用ですか?」
「そのー、後藤田先生を見なかった?」
「職員室にいらっしゃらないんですか」
「うん。今、職員室から出てきたところなんだけど。電話をかけても出ないので…」
私もかけてみましたら例の電波の届かないところかうんぬんというアナウンスが流れます。
「電源切ってますね」
となると、ふたつに絞られます。
「康君、このまま職員室に行って書類を後藤田先生の机に置いてきてもらえる?」
「わかりました、その後はどうしましょうか」
「生徒会室に先に戻っていてね」
「はい」
康君が職員室に向かう中、猫目先生に二つの場所を教えます。
「私はこちらに向かうので、猫目先生はこちらをお願いします」
「いえ、こっちは僕が!」
「こちらにいなかった場合、念のため三番目の場所に行ってもらいますから」
「わかった」
電話番号を交換した後、二人で高等部の棟を出て先生を捜しに行きます。
私は丁度バスが来たのでそれに乗って中等部へと向かいました。
バスを降りたところで猫目先生から電話がかかって来ていたのに気づいて(サイレントにしていて気づきませんでした)折り返しかけました。
「猫目先生?」
〔あー、水崎さん?〕
「いましたか?」
〔いや、いなかったよ〕
「わかりました、それでは三番目の場所をお願います」
〔了解〕
通話を切って私は目的に向かって走ります。
途中で中等部の風紀委員に声をかけられそうになりましたが、私の服を見て気づいたのか頭を下げられました。
私も軽く頭を下げて、ひたすら走ります。
中等部のカフェに着くと、見間違いようもなく後藤田先生が目じりを下げながらスイーツを堪能しているところでした。
「後藤田先生」
「うおっ、水崎!」
「仕事放棄ですか?」
「いや、いやいや。疲れた時には糖分だよね?」
「わざわざ中等部にまで来なくても良いですよねぇ?」
あからさまな逃亡です。
周りを見ると中等部の生徒がこちらを見てクスクス笑っていました。
「中等部の生徒に笑われていますよ、さぁ。戻りましょう」
「せ、せめて最後まで食べさせて!」
エクレアが残っています。なのでカフェの店員さんを呼んで包んでもらいました。
高等部の先生って甘党が多いですね、本当に。
「さぁ。帰りましょうか」
「…うぅ、はい…」
しょんぼりして立ち上がりましたけど、先生。これ高等部でも食べられるスイーツですからね?
「猫目先生が探していまし…何で逃げるんですか」
逃げようとした背中のシャツをつかんで引き止めると、首を左右に振って涙目になっています。
「何で涙目なんですか、ほら行きましょう」
「や、いやだ」
「子供じゃないんですから」
「だ、だって行ったら人間ドックに行かされるううううううう」
教師全員が受けるのですから、どうやったって逃げられないと思うんですけど。
どうやら猫目先生が書類を集める係りで、今日が期限のようです。
「先生」
「な、なっ、何かな? 目が怖いよ…水崎」
「これから帰って猫目先生に書類を提出するのと、生徒会に行って全員に説教されるのと、どちらがいいですか?」
「逃げるという三番目の選択肢は」
「ありません」
先生のシャツをつかんだまま猫目先生に電話をかけまして、じたばた逃げようとする後藤田先生を引き連れ高等部へと戻りました。
書類提出の方を選んだ後藤田先生ですが、いなかった間の仕事が滞っていたために結局生徒会で怒られることになっていました。
風紀委員の顧問である蓮見先生にお腹を抱えて大笑いされていました。
「お前だって胃の検診とか腸の検診嫌いだって言ってたじゃないか」
「それでも俺は逃げない、潔く受けるぞ」
「去年の胃の検診の時、涙目になってたくせに!」
「お前、それをここで言うか!? くそぅ、このエクレア食ってやる!」
「あぁぁぁぁ! 蓮見!」
私たちは呆れてその様子を眺めていました。
どうでもいいですけど、先生方。仕事してください。




