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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第〇四十話 予報は晴れでした



 朝、寮の食堂でいつも早い時間に会う女子がいるのですが、彼女が珍しく私の前に座って気怠げな顔を見せた後、外を指さしました。

 窓の外は特におかしなところはなく、いつも通りです。

 首を傾げて視線を彼女に戻しますと、携帯の天気予報を私に向かって見せていました。

「晴れ九十パーセント」

 私が読み上げるとコクンと頷いて携帯をしまった彼女はしかしそこで不敵に笑って見せました。

「雨…降るよ」

 傘を持っていった方がよさそうです。短い距離ですが雨量によってはずぶ濡れになりますからね。

 念のためにタオルを一枚くらい鞄に入れておきましょう。

「ありがとう」

 お礼を言うと彼女はハニカんで頷きます。

 言葉は少な目な彼女ですが、笑顔がとっても可愛いんです。そして寮内では天気予報士と呼ばれているくらい的中率が高いことでも有名です。

 天気図を見ているわけではないそうで、何で当たるの? と聞いたことがあるのですが「匂いがする」んだそうです。

 部屋に戻って折り畳み傘とタオルを鞄に入れて、寮監の部屋に雨が降るそうですよと電話をかけておきました。

 彼女の天気予報を聞いた人は、寮監に連絡することになっていて、寮監はそれを掲示板に貼ってくれるのです。私が登校する時間には掲示板に貼り出されていました。

 最初は気象庁と知り合いなのかと思ってびっくりしたのですけどね。


 真琴と真由ちゃんと三人で登校する時に空を見上げてみましたが、雨が降りそうな雲は見られませんでした。なので、まさかこの数分後に降り出すとは思いもしなかったのです。

 私たちが生徒会によっている間に降り出したらしく、教室へ行くと速水君がずぶ濡れとまではいかないまでも、結構濡れていました。外部からの登校生ですから、家を出た後に雨が降り出したんでしょう。

「おはよう、陽向ちゃん」

「おはよう、速水君。雨に当たっちゃったのね」

「うん、まさか降り出すとは思わなかった。天気予報晴れだったんだけど」

 ハンカチで拭いていますけど、許容量を超えてますよね。

 なので、鞄からタオルを取り出して速水君に渡すことにしました。

「はい、これどうぞ」

「えっ?」

「ハンカチじゃ水分を取りきれないでしょう」

「いや、でも…」

「新品じゃないですけど、きちんと洗濯してあるから」

「…………………あ、ありがとう」

 何でしょう…今の間は。

 目がちょっと泳ぎましたよ。

「まぁまぁ速水氏、陽向さんに他意はない。遠慮せずに使いたまえ」

 奈津子さんがニヤニヤ笑いながら近づいてきました。

「速水氏がいろいろ考えることは、目をつぶってあげようじゃないか」

「何で上から目線なんだよっ!」

 速水君がタオルをぎゅっと握ったので、私は慌てて言葉を付け加えました。

「あ、お気に入りのタオルなので、返してね」

 沈黙の速水君。

 動きが止まってますけど、早く髪を拭いた方が良くないですか?

「陽向さん陽向さん」

「はい?」

「本当に陽向さんって面白いわぁ」

「はぁ…?」

 どこに面白い要素がありました?


 ふと窓の外に目をやりますと、雨が上がっていました。今日はもう降らないのでしょうか。

「下校時間にも晴れているといいね」

 そう言って速水君を見ると何故か顔が真っ赤で。

「大丈夫? 顔が赤いけど…まさか雨に濡れて風邪引いちゃった?」

 右手で額の温度を測ろうとして後ろに下がられました。

「だ、大丈夫」

「そう?」

 授業が始まるまでには戻っていましたけど、一応は保健室に行って熱を計ってもらったほうが良いんじゃないでしょうか。


 ちょっと心配です。



陽向…君が心配ですw

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