第三十八話 植物園でお昼です
テーブルと椅子がある場所があったので、そこでお昼を食べることになりました。
お弁当が入ったバッグは実は修斗先輩がずっと持っていてくれたんです。重いですから代わりますと言っても代わってくれませんでした。
椅子に座ってお弁当箱を開けると、やはり三人分。多いです。でも多い分、色とりどりで綺麗でした。
自分で作ってはいませんよ、寮ですからね。食堂の方にお願いして作ってもらったものです。
サンドイッチを食べていると横を向いていた修斗先輩が珍しく驚いた顔をしました。
「どうかしましたか?」
私が聞いたときです。修斗先輩の視線を追って見るとそこに知っている顔がありました。
「水崎?」
篠田先生でした。
「篠田先生!」
色の薄いサングラスをかけていましたが、確かに篠田先生でした。
若干周りの温度が上がったような気がしたのは気のせいでしょうか。あちこちでヒソヒソと話し声が聞こえます。
「こんな遠くまで来ているとは思わなかった」
篠田先生が苦笑気味に笑いました。まぁ、学園からは遠いところですものね。
そういえば篠田先生は生物の先生でしたか。
「お仕事の一環ですか?」
「いや、単なる趣味かな。珍しい花が咲いたって聞いたから」
先ほどのサボテンの事ですね。
「園芸がご趣味ですか」
「…ガーデニングって言って欲しいんだけど」
「音楽鑑賞がご趣味では?」
「うん、まぁ。それも趣味だけどね。サボテンが好きなんだ」
なるほどなるほど。
「他の生徒には言わないように」
「えー?」
奈津子さんに教えたら喜ばれそうなんですが。
ちらっと修斗先輩を見ますと、小さくため息をついていました。
「陽向、それが広まるとサボテンのプレゼントが先生の机に乗ることになる」
あぁ…あぁ、なるほど。確かにそれは…困りますね。
篠田先生だけじゃなく、周りの先生達にも迷惑がかかりそうです。
「それなら、私にも言わない方が良いじゃないですか」
「水崎は口が堅そうだし。つい…」
ついって。
言いませんけど。あまり情報を与えると校庭に穴を掘って“王様の耳はロバの耳ーーーー!”って叫びたくなりますよ?
「これから昼飯か? デートを邪魔して悪かったな」
「え? 別にデートじゃないですよ? 先生もどうですか? たくさんあるので食べきれないかもって困ってたんです」
ニッコリ笑って椅子を勧めると、何故か困った顔をされました。
「お昼食べちゃいましたか?」
「…いや、食べてはいないが。……君は」
「更科修斗。生徒会会計です」
「そう…か。すまない、邪魔するつもりはなかった」
「……いえ」
篠田先生は一度席を立って飲み物を買ってきてくれました。奢りです。
先ほどのサボテンの話などをしつつ、見事お弁当は空になりました。
良かった!
運転手の東さんにも食べてもらおうと思っていましたが、植物園の前で「いってらっしゃいませ」と見送りされてしまったんです。
今、どこでしょう。まさか一旦学園に帰ったりはしませんよね。
以前遠出した時は違う方でしたけど、荷物持ちをしてくれたりしましたから一緒に入るのかと思っていたのですけど。
ニッコリ笑って見送られました。
帰りに先生にも一緒に乗って行きませんかと言いましたら、きっぱりと断れました。
そんなにバッサリ断らなくてもいいと思うのですけど。
「弁当ご馳走様。水崎、先生はな」
「はい?」
「水崎の、将来がかなり心配だ」
「はぁ?」
何でしょう、生物の点数はそんなに悪くなかったと思いますよ。
「更科、嬉しくないかもしれんが言わせてくれ…頑張れ」
「…有難うございます」
篠田先生は深いため息を吐くと車に乗る私たちを見送ってくれました。
「今時の子にしては、子供すぎる」
篠田先生が何かを呟いたようでしたが、丁度ドアを閉めた時だったので聞き取れませんでした。




