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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第三十六話 再び



 車が生徒玄関前に着いて、修斗先輩と降りた時でした。

「水崎さんっ」

 弾むような声と走り寄ってくる足音が聞こえました。一度聞いたことのある声。

「あ…」

「また会えましたね」

 修斗先輩が私とその人との間に入って壁となってくれたので、腕を掴まれることはありませんでしたけど。

 そうです、入学式の時に腕を掴んできた五十嵐さんでした。

「あの時は大変失礼しました。お詫びしたかったので、会えて良かったです。怖い思いをさせてしまって本当にすみませんでした」

 深々と頭を下げてそのまま動きません。

 修斗先輩を見上げると、渋々といった様子で頷いたのを見たので声をかけます。

「頭を上げてください」

「許していただけますか?」

「あの、もうしないと約束していただけるなら…」

「はい。二度と貴方の許可なく触れることはしません」 

 そういいながら五十嵐さんは頭を上げました。

 修斗先輩がそれでも私の前から動きません。

「あの…ところで何でここにいるんですか?」

「あぁ。PTAの役員になったんです。今日はその会議がありまして」

 なるほどと頷いていると修斗先輩がチラリと腕時計を見ました。

「とっくに会議が終わって皆さん帰っているはずの時間かと思うのですが」

「あぁ、はい。弟に会っていましたので遅くなりました。許可はいただいていますよ」

 ちっ…と小さく舌打ちが聞こえました。

 修斗先輩?

「用事が終わったなら、速やかにお帰りください」

 丁寧な言葉なのに、とても冷たく響きました。

 修斗先輩を見た五十嵐さんは、少し驚いた表情をしましたが苦笑して軽く頭を下げました。

「失礼します」

 五十嵐さんが見えなくなって、少し離れた位置からホッと息をつく音が聞こえたのに気づいたのですが、乗ってきた車の運転手さんが運転席側のドアの前に立っていました。

「あ、すみません。お忙しいのに引き留めたようになってしまって」

 この時間だと、まだ他に呼ばれている可能性があります。あまりお待たせするようなことがあっては困りますよね。

「大丈夫ですよ。何事もなくて良かった。それでは私はこれで」

 運転手さんは帽子のつばに手をやって軽く頭を下げて車に乗り込みました。

「ありがとうございました」

 修斗先輩とその車を見送っていると、風紀委員が数名こちらに近づいてきました。血相を変えて…というわけではなく、話しを聞くためのようです。

「大丈夫?」

「ええ」

 今期風紀委員長網沼さんと双子の風紀委員でした。

「網沼、悪いが後で良いだろうか」

「……いいわ。こっちもそれなりに忙しいから、すぐに来てくれる?」

「了解した」

 修斗先輩が私の背を軽く押したので、三人に目礼して生徒玄関に入りました。

 生徒会室に入って芹先輩に健康診断のことを報告した後、修斗先輩と網沼さんのところへ行くのかと思ったら、修斗先輩が一人で行ってしまいました。私には芹先輩に話すようにと言って。

 芹先輩はそのことを聞くと門のところへ電話をかけて、五十嵐さんが帰ったかどうかを確認していましたよ。

「陽向ちゃんお疲れさま。休憩しようか。さっき理事長が差し入れしてくれたんだ」

 箱を開けると中には、あの青い猫が大好きなどらやきでした。有名店のものらしいです。

「どうせだから緑茶にしよう」


 修斗先輩が戻ってきて、全員で休憩となりました。

 


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