第三十五話 見せたくないもの?
「陽向ちゃーん、忙しいとこごめん。中等部に行ってきてくれないかな」
「はい、わかりました」
「あ、ちょっと待って」
携帯を持って生徒会室を出ようとしましたら、芹先輩に引き止められました。
「修斗連れてって」
「はい?」
「念のために」
何の念の為でしょうか?
「修斗、わかってるね?」
「あぁ」
「それじゃ、いってらっしゃーい」
二人だけで短い確認のように話をして、芹先輩はニッコリと私に笑いました。
「は、はぁ。行ってきます」
修斗先輩をお供に中等部へと向かうことになりました。
時間的に間に合うので構内バスに乗ろうと思っていましたら、車が用意されていました。
何かあったんでしょうか? いつもならバスや徒歩でもいいはずなのですが。
後部座席に修斗先輩と乗ると中等部へと車が動き出します。
「陽向はゴールデンウィークにどこか出かけたのか」
「はい、家族と近場に。後は真琴と真由ちゃんと和香を連れてテーマパークに行ってきましたよ。すごい混雑でした」
ゴールデンウィークは二週間以上前なのですが、何故今その話題をふってくるのでしょう。
「修斗先輩は?」
「自分は芹と京都に」
「京都ですか」
そういえばお土産もらいましたね。京都とは言われませんでしたけど。綺麗な扇子をもらいました。
「芹が鉄扇にしようかと言ったので止めたんだが」
さ、さすがにそれは…。
「昔のに比べて軽くなっているから、女性でも使えるとかなんとか…まぁ本家のやつに教えられていたな」
「本家?」
「…あぁ、芹の家の本家が京都にあるんだ」
「そうなんですか」
観光に行っていたわけじゃないんですね。
もらった扇子には仄かに香りがついていて、時々使っています。
それにしても普段はあまり話さない修斗先輩が珍しく長く話をしていますね。
「あの、修斗先輩」
「なんだ?」
「何かありましたか?」
「……いや」
その後に何も言わないので窓の外を見ようとしましたら、また話かけられました。
「夏休みは予定があるのか?」
えーと、まだずいぶん先ですよね。
「今のところ、交流のためにいく北海道以外は決まっていませんけど。修斗先輩は決まっているんですか?」
「……決まっていない」
何でしょう…先ほどからの会話。
「日曜日は何をしていた?」
「…寝てました」
「…そうか」
中等部が近づくと会話もなくなり、外を見ても何も言われなくなりました。
何だったのでしょう。何か見せたくないものでもあったのでしょうか。
でも、いつも通りの学園だと思うのですけど。
中等部に着いて生徒会室へと向かいます。
事前に連絡をしてあるので玄関に迎えが来ていました。
「お久しぶりです、更科先輩、水崎先輩」
今期中等部生徒会長になった海音寺さんでした。
「お久しぶりですね」
中等部に特別制服はないのですけど、胸元に生徒会のバッジが光っています、
ピカピカで眩しいです。
今回は男子の健康診断の日程について色々と話をしにきています。
何しろ男子は少ないので、高等部男子は中等部男子と一緒に健康診断を受けることになっています。
毎回健康診断のために集まる場所が違うので…色々と理由がありまして。ともかくその場所などを教えてもらい、集合時間や行き返りのバスの手配などの話をして終わりました。
帰りも車でしたが行きと違う道を通っていました。
今までになかったので驚いていると、修斗先輩が何かと話しかけてきます。
「修斗先輩」
「なんだ」
「何か隠してませんか」
「…どうしてそう思う?」
隠していないとは言えない、そこは真面目な修斗先輩です。
いつも一緒に行動する時は、こんなに話したりしません。もちろん別に退屈というわけではありませんよ? 何も話さなくても落ち着ける先輩です。
「いつもより随分と饒舌じゃありませんか」
「だめか?」
あ、今、犬耳がへちょんと垂れるような幻影が見えました。
レアですレアな修斗先輩!
眉を八の字にして困った顔なんてめったに見られません。
「だ、だめじゃないですけど」
「今度の日曜日は暇か?」
「今のところ特に用事はありませんけど」
「植物園に行かないか?」
以前一度行ってみたいと言っていたのを覚えていてくれたんですね!
「嬉しいです!」
「そうか、それじゃ九時に待ち合わせで良いだろうか」
「はい」
少し遠いので躊躇していたところでもあります。日帰りできる距離なんですけどね。
「楽しみです」
そう言うと、修斗先輩が微笑んでくれました。
次の日曜日楽しみでワクワクします。お願いしてお弁当を持って行きましょうか。
んっ? あれっ? もしかして誤魔化されました?




