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私は急に止まれない。2  作者: 桜 夜幾
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第三十一話 新歓予行演習です



 新入生歓迎会の前に生徒会と先生たちで料理の試食会が行われることを初めて知りました。

 昨年も行っていたそうです。もちろん生徒会の一年生は参加しません。


 新歓が行われるホールで一年生を担当する先生たち以外の先生が集まって試食会なのですが、何故か理事長も参加していました。

「プロの技を盗みにね」

 ウィンクをされましたが、いえいえ何をおっしゃるのやら。理事長はすでにプロ並みの腕前をお持ちじゃないですか。


「これ新歓の予行演習なんですか?」

「それも兼ねているかな。当日出す全種類は出てないけどね」

 芹先輩がホールの端で様子を眺めながら言いました。人の流れを見ているようです。

「風紀委員も練習を兼ねて来ているよ」 

 芹先輩の視線を追うと、確かに風紀委員の生徒がいるのが見えました。速水君も来ているんでしょうね。

「今年はお握りを出すんだよ」

 庶民風かと思って頷いていましたら、ラインナップにため息が出ました。

 イクラはまぁ分かるとしまして、和牛と聞いた時には何故に肉を入れる!? と言いかけたくらいです。当たりまえの顔をされたので堪えました。最高品質の和牛だそうです。はぁ…。

 色々な具の名前を呆れながら聞いていましたが、最後に梅と言われたのでホッとしました。

 ですが、甘かった…生クリームにはちみつをかけてイチゴジャムをトッピングした上にキャラメルをかけたくらい甘かった!

「一個五千円の梅干し!?」

「一万のとどっちにしようか悩んだんだけどね」

 その梅干し何なんですか!? 金粉でもかかってるんですか!?

 五千円の梅干しを想像しようとして、壺が金色をしているところで考えるのをやめました。

 梅干しは梅干しですよね?

 久しぶりに泉都門らしい金額に会ったような気がします。

 ここのところ慣れていたことは否めません。

 危ない危ない。気を引き締めて庶民道を行きましょう。


「今日は出てないかな、当日が楽しみだね」

 数量限定だからね…と言われては食べたいような食べてはいけない様な困ったことになります。

 新入生歓迎会なのですから、食べるべきは一年生です。

 でも和牛よりその梅干しが食べてみたい…。

 想像してよだれが出そうです。

「そういえばホール裏に何か作っていましたけど、あれ何ですか?」

「あー、あれは窯だね」

「窯?」

「ピザとかパンを焼く窯」

「……は?」

「窯があるなら作ってもいいっていうお話だったんでね。当日焼き立てが食べれるよ」

「新歓のためにピザ窯作ったんですか」

「うん」

 うん…って。

「理事長も使ってみたかったらしいし、料理部も興味津々だったよ」

 それはわかりますけど。わかりますけれども!

 そもそもは新入生歓迎会のためですよね?

「イタリアで焼き立てを食べたことあるけど、美味しかったよー。日本のも美味しいけど、本場は本場なりの美味しさがあるよね」

 あるよねって言われてもイタリアに行ったことがないのでわかりません。

「どっちが好きって聞かれてもどっちも好きだなぁ」

「はぁ」

「今度一緒に食べに行こうね」

「は……はぁ!?」

 いやいやいやいや、イタリア行きませんって!

「あれ? ピザ嫌い?」

「いえ、好きですけれども」

「美味しいお店知ってるよ、一緒に行こうよ」

「行こうよって言われましてもですね…」

「だって陽向ちゃんたちの修学旅行ってイタリアでしょ?」

「…え」

 丁度近くに来た理事長に芹先輩が声をかけました。

「理事長、今年の修学旅行イタリアですよね」

「そうだけど?」

「き、聞いていません」

「海外であることは伝えてあったよね」

「はい」

 パスポート取得のために結構前から言われてはいました。

「自由時間に市場に行こうと思ってるんだよ」

「り、理事長も来るんですか!?」

「うん」

「そして僕たちも行くって言ったらびっくりする?」

「はぁ?」

「今年は納涼祭が他校だから、その分生徒会の研修のためにお金が使えるんだ」

 市庁舎などの見学があるのだとか。


 まだ先のことなのに、今からちょっと怖いです。

 


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