第二十九話 聞くは一時の恥
「お茶を淹れたくない理由は何?」
「えっ?」
「ずいぶんとお茶にこだわってるから、何かあるのかなと」
私が尋ねると、そっぽを向きました。
カチンと来たらしい純君が動きかけましたが修斗先輩に止められていましたよ。
私、何かしたのでしょうか?
四月になるまで会ったことないと思うんですけど。
「……ぃんです」
「え?」
「わからないんです!」
全員が「何を?」と思ったところで葛城さんが立ち上がりました。
「美味しいお茶の淹れ方がわからないです!」
「…聞けば良かったんじゃ?」
康君がポソッと言うと睨まれていました。
「さっき自分でお茶飲んでたじゃないか」
純君が言うと、葛城さんは泣きそうな顔になっていました。
「濃すぎて苦かったのよ!」
ティーパックのお茶だったのですが、入れておく時間が長かったのでしょうか?
「そ、掃除用具だってどこにあるか分からないし」
「それこそ、どこにあるか聞けばいいじゃない」
「皆さん忙しそうで声をかけづらかったのよ!」
勝手に開けて良いのかどうかもわからなくて、内心オロオロしていたそうです。
「ふむ、教えていなかったボクらも悪いけど、聞かなかった葛城さんも悪いってことで、両成敗といこうか」
芹会長がにっこり笑って葛城さんを座らせました。
「お茶のことは素直に聞いてくれれば良かったんだよ。真琴君や真由ちゃんも最初は陽向ちゃんに聞いていたんだからね」
中等部の生徒会にはキッチンがなくてペットボトル飲料が多かったそうです。温かい飲み物といえばコーヒーメーカーのコーヒーだったとか。
高等部生徒会には一つずつ作るコーヒーの機械があります。そのうち中等部にも置かれるそうです。
「康之介君と純君も二年生に教えてもらっているところだしねぇ」
そうなんです。何しろ泉都門はお茶を淹れてもらうことはあっても自分で淹れたことがない…なんて人が大勢いるところです。淹れ方を知らないと聞いたところで珍しくもないのですよ。
それを聞いて葛城さんはまたポカンと口を開けました。
そういえば葛城さんも外部生でしたね。
「専門的にというかもう少し詳しくお茶の淹れ方を知りたかったら料理部に行ってみると良いですよ」
丁寧に教えてくれます。そして勧誘されます。
「紅茶だけじゃなく緑茶とか玉露の淹れ方とか色々あるんです」
お茶を淹れてくれる人を雇えばいい…という話しなのかもしれませんが、やはり個人情報などもありますので極力自分たちでやろうということになっています。
「何でも聞いて?」
芹会長が言うと葛城さんは素直に頷きました。
「ちなみに掃除用具はここ。お茶は康君や純君と一緒に教えてもらって。陽向ちゃんと同じ特別制服を着たいなら、それなりに仕事をしないとね。後は中間テスト次第かな」
テストという言葉に一年生全員の顔がこわばりました。康君と純君は中等部からの生徒なので中等部の時の順位が上位だったためにすぐ入れたそうですが、外部生が加わった時の順位がどうなるかはわかりません。
「あれ? そういえば芹会長。私が入ったのはテスト前でしたけど…」
「あぁ、陽向ちゃんはね。外部生の入試で二位だったから」
「……え」
「十位とかだと微妙だったんだけどね。二位だったから文句なしだったよ」
ということは葛城さんはそれくらいだということなのでしょうか。
「その陽向ちゃんで、昨年の最後の成績が十一位だよ」
一年生全員が青くなりました。
うん、でも私を引き合いに出さなくてもいいじゃないですか。恥ずかしいですよ。
真琴が慰めるように私の肩を叩いてくれます。
今年こそ十位に入って……入るように…ううう。
聞くは一時の恥聞かぬは末代の恥
でも聞けないときもありますよね




