第二十三話 控室で
ホールの控え室にいると、速水君が血相を変えて入ってきました。
「陽向ちゃん、怪我無い!?」
どんな情報を聞いて来たのでしょう。
「見ての通り大丈夫。腕を掴まれただけだから」
ホッとしたようで、その場にしゃがみ込みました。
「どんな情報だったの?」
笑いながら言うと速水君はその体勢のままため息をつきます。
「陽向ちゃんが襲われたってきいて…」
「間違ってはいないけどね」
そう呟いた後に芹会長もため息をついて、顔を上げた速水君のところへ行くと肩をぽんぽんと叩いていました。
「ごらんの通り、全然分かってないんだよ。悪いけど今日一日陽向ちゃんの警護を頼めるかな」
「はい、そのつもりで来ました」
「寮生活になったのは今回においては良かったかもしれないね。蓮見先生にはボクが連絡しておくよ」
私が首を傾げると、二人はふかーいため息を吐きました。
そろそろ入学式が始まるころですね。
康君と純君が入場してくるところを見たかったのですが、二人に却下されました。
すでに生徒会に入っているので、二人の制服は特別制服です。目立ちますよね。
「そういえば、真琴と真由ちゃんは入学式の時普通の制服でしたよね?」
「あぁ、二人は生徒会に入ることを了承していなかったからね」
「え? 中等部では生徒会だったのでは?」
「全員が続けるってわけじゃないんだ。慣例のようになってはいるけどね」
芹先輩と修斗先輩は中等部から生徒会にいたそうですが、卒業した貴雅先輩は高等部になって生徒会に入ったんだそうです。
ホールの方で入場曲がブラスバンドの演奏で始まったのが聞こえました。
「ちょっとだけでもダメですか?」
「「だめ」」
二人に声をそろえて言われて、仕方なく椅子に座っていたら修斗先輩と真琴と真由ちゃんが戻ってきました。
真由ちゃんは私をみるなり抱きついて涙目になっています。
「陽向ー」
「大丈夫よ」
腕を掴まれているところを目の当たりにしたので、怖かったのでしょう。
「Aは?」
芹会長の短い質問に、修斗先輩がちらっと私を見た後、報告しました。
「今のところホールで入学式に参加中」
「情報は?」
「一年四組、五十嵐陸の兄で五十嵐創」
ぎょっとして修斗先輩の顔を見ますと、書類を見せてくれました。
きちんと登録されている情報のようです。
「一年四組か…それなら山影君のクラスだね。それとなく聞いてもらおう」
「わかった、連絡しておく」
「陽向ちゃんは式が終わるまでここで待機」
「…はい」
式が始まってしまえば、あまり仕事はありません。
なので素直に頷きました。
タブレットで門を通った人の確認などができますからね。
「後、何人くらい?」
「今のところの予定では後二十人ほどでしょうか」
「パーティ会場の方は?」
「準備万端だ」
修斗先輩が確認しに行っていたのでしょう。芹会長は頷いてホッと息をつきました。
「式は何とか無事に終わりそうだね。後はパーティか」
パーティは長丁場ですが生徒会は出席しないので、用意だけが仕事です。
「宿泊施設も大丈夫だね?」
「申請された数プラス数部屋は用意できてます」
真琴が宿泊施設の利用状況をタブレットに出しました。
「んー。…ん? 市長も泊まって行くの?」
「…市長の娘さんが今年高等部に入学したんですよ」
「なるほど」
今日だと私が参加できなくなる可能性もありましたね。
少しほっとしてタブレットを見ていると、守衛さんからのヘルプが届いていました。
「芹会長、守衛さんから…」
「あぁ…。修斗、行ってくれる?」
「了解」
なかなかすんなりとは行かないようです。




