第百九十八話 お菓子の甘い香り
お医者様から少しだけ許可がおりまして、生徒会の仕事を少し長く出来るようになりました。
少しだけ頬もふっくらしてきたと、周りの人にも言われてホッとしました。
自分が思うよりもずっと頬が痩けていたようで、私を見る皆が痛ましいものを見るような顔だったので、辛かったんです。
外へ出る仕事は康君や純君がやってくれるので、生徒会室で仕事をするわけなのですが。お茶を淹れようとしたら大庭さんが淹れてくれますし、資料を棚から取ろうとしたら片倉さんが取ってくれるので、あまり動きません。
この頃は貧血もなくなってきましたし、ふらふらすることも減ったので一人でも大丈夫だと言ったのですが、お医者さんの許可が出るまでは離れないと言われました。
さすがにイスにずっと座っているのも疲れるので、運動がてら職員室へと行くことにしまして……もちろん大庭さんを説得してからですが……廊下を歩いていると肌寒くなったこの季節に中庭で言い争っている生徒がいました。
窓から見ると若尾君と中岸さんでした。
これは声をかけた方が良いのでしょうか。
大庭さんを見ると、ニッコリ笑顔で「行きましょう」と言います。
職員室の帰りに、まだ言い争っているようだったら声をかけましょう。うん、そうしましょう。
独り言ちつつ職員室に行くと、後藤田先生の机がとんでもないことになっていました。
「せ、先生」
「ん? あぁ、水崎」
「もしかして、この机の上の箱って……」
先生の机の上は色んな大きさの箱が……。
「何故かわからんが、あちこちから差し入れがきてだな」
私の予想を超える、願掛けの周知率でした。
「一人で全部は食べないですよね?」
さすがに。
ちらっと先生の顔を見ると、少し食べる気満々だったようです。
でも、これ数が多すぎですよ。
先生は渋々といった様子で、クッキーやマカロンなどを周りの先生たちにおすそ分けしました。
フルーツタルトのホールは生徒会にと戴きましたが、アップルパイは譲れなかったようです。
ただ、大庭さんがお茶を淹れますから生徒会室にいらっしゃいませんか? と言った時は、アップルパイを抱えて元気よく「はい!」と答えていました。
心なしか頬が赤いような気がします。
気がしますが、見なかったことにしましょう。
先生、仕事はいいんですか。
後藤田先生を連れて、この場合連れてが正しいと思われるのですが、ともかく一緒に職員室を出て中庭の横を通ったのですが。
すでに二人の姿は見えませんでした。
少しホッとして生徒会室に戻ると、理事長からの差し入れ「甘いベーグル」が届けられていました。
現在、未だかつてないほど生徒会室が甘い匂いに包まれています。
少々寒いかもしれませんが、窓、開けても良いですよね?