第百九十一話 身を守るもの
お昼から始まるので、それまで少し休んだ方が良いと診察をしてくれた先生に言われまして、散歩の後ソファに横になっていました。
暖かいので窓を少し開けていたのですが、サワサワと木々の音が聞こえます。
「寒くありませんか」
「大丈夫です」
「先ほど天気予報を確認しましたら、午後は暖かいようですよ。時間になりましたら起こしますから、安心してお休みください」
返事をする前に眠ってしまったらしく、大庭さんに起こされた後に時計を見て、もうすぐお昼だと気づきました。
起きたばかりで頭がポヤーとしているところに、案内されてきた速水君がいつの間にか目の前に立っていました。
「は、やみく、ん?」
「あ……陽向ちゃん」
何故か真っ赤な顔をして目が泳いでいます。
「どうしたの?」
「あ、いや、その、ええと……」
側にいた大庭さんがクスリと笑って、速水君に椅子を勧めました。
「お茶を淹れますね」
お茶を飲んでいるうちに漸く頭がはっきりしてきまして、速水君も真っ赤な顔が元に戻っていました。
「早めに来て良かったよ。家の場所は教えられていたけど、門がどこにあるのかわからなくて結構歩いたよ」
「歩いてきたの?」
「そんなに遠くなかったし。あ、これ明里から」
部活があって来れないという明里ちゃんから、ラッピングされた袋を預かってきたらしく、渡してくれたのでさっそく開けて中身をみました。
中は可愛いウサギのストラップだったのですが。
「それ、防犯ブザーだって」
「…………明里ちゃんにまで心配かけてごめんなさい」
さっそくストラップを携帯につけました。
「結構ストラップ付いてるね」
「うん。実はこれとこれも防犯ブザーで……」
「あぁ、うん。ぱっと見、それらしくないのが多いんだ」
「そうなの。ちなみにこっちがペンライトで」
「…………うん」
「この円筒形のは小さいけど、ほら」
「……ハサミ?」
「うん」
速水君は頭痛を感じたような顔をしてため息をつきました。
「ハサミの刃が小さいけど、意外と丈夫でロープくらいなら……」
「うん、わかった。なんとなーく、誰が贈ったかわかった」
さすがに小型のペンチをストラップにはできないとのことで、芹先輩が残念がっていました。
「“だから、手錠がかけられそうになったら逃げてね”って言わたの」
その時、背後に気配を感じまして後ろを見ると片倉さんが苦笑しながら立っていました。
「信頼回復までには時間かかりそうだなぁ」
「あの時は仕方なかったと何度も説明したのですが」
「仕方なかったじゃすまされないんだよ、俺たちは」
片倉さんが珍しく真面目な顔でため息混じりに言いました。
「片倉さん、陽向様のお気持ちを沈ませるようなことを言わないでくださいね。せっかくこれから楽しいパーティですのに」
「大丈夫ですよ大庭さん」
片倉さんは素直に謝って……そのまま、何故か速水君と私の間にわざわざ椅子を持ってきて座ります。
「えーと、何故そこに……」
「ガードが俺の仕事なんでね」
大庭さんがヤレヤレと言った様子で新たにお茶を淹れてくれました。