第百八十五話 お見舞いの品
クラクラして背もたれに寄りかかると、慌てたように大庭さんが横に倒れないように支えてくれました。
そして一言。
「帰りますよ」
あぁ……せっかく久しぶりのカフェの時間が……。
「じゅ、純君。頼んであるサンドイッチ、忘れずに持って行ってね」
「はい」
その会話を最後に私は大庭さんに抱えられて車で湯江家へと強制送還されたのでした。
しかも熱を出してしまい、このままだと明日はお休みとなってしまいます。
何て弱くなってしまったのでしょう。
もどかしい思いでベッドで丸くなっていると、軽いノックの音がして大庭さんが入ってきました。
「大庭さん」
「落ち着きましたか? 少し……熱が下がったみたいですね。これ、和泉様からお預かりして来ました」
大庭さんが枕元に何かを置いて蓋を開けると涼やかな音が鳴り始めました。
「オルゴール……」
「くれぐれも安静にしていろとの言伝です」
「はい……」
オルゴールの音を聞いていると、いつの間にかぐっすりと眠っていました。
ふと目を覚ますと今回は夕食前で、ベッドの側の椅子には龍矢さんが座っていました。何故夕食前だと分かったかと言いますと、カーテンの隙間から外の明かりが見えたからです。
「龍矢さん?」
「久しぶりだな、陽向」
「華さんは?」
「学から聞いてな。もう少し元気になってから会った方が良いだろうという結論にいたった」
「やっぱり、げっそりして見える?」
龍矢さんは私の額を撫でると小さく頷きました。
「たぶん、陽向が思っている以上にな」
「そっか」
どうやら熱は下がったみたいで、龍矢さんの手のひらが温かく感じました。
「夕飯食べるか?」
「うん。いっぱい食べて早く元気にならないと」
「急激に戻っても体に良くない。ゆっくりでいい」
「うん」
隣の部屋に夕食が用意されていて、龍矢さんに支えられながらそちらに移動しました。
「ちょっと電話をかけてくる、食べていてくれ」
「うん」
龍矢さんが部屋を出て行くと、用意をしていた大庭さんが近づいて来ました。
「ひ、陽向さん陽向さん。今の方、どういう御関係ですか?」
「え? えーと伯父さんです」
「おじさん? 素敵な方ですねえ」
大庭さんは龍矢さんみたいな人がタイプですか。
ほぅ……とため息をついてうっとりしちゃってます。
「大庭さん」
「はい?」
「残念なお知らせがあります」
「……はい」
「龍矢さんは、私の父の姉の旦那様です」
「あぁぁぁ、私の淡い恋心よさようなら~」
何処から出したのか白いハンカチを振って、そして何事もなかったかのように夕食の準備をしてくれました。
龍矢さんに言われた通りに食事をしていると、戻ってきた龍矢さんの手にはラッピングされた籠がありました。
「それ何ですか?」
「陽向にお見舞いだそうだ」
籠の中身は色んなお菓子です。果物じゃないあたりが私をよく知っている人からのものだと想像させます。
ただ単に、体を冷やさないようにと配慮されたのかもしれませんけどね。
「カードが入ってる」
龍矢さんが取り出して渡してくれたカードを見ると、生徒会と風紀委員からの連名となっています。
中に駄菓子を発見して思わずニンマリ笑ってしまいました。