第百八十四話 気合い
移動教室以外は大人しく教室で過ごし、お昼は生徒会専用の個室で、何やら特別メニュー──鉄分を増やしましょうメニュー──を食べて、放課後一時間だけ生徒会で仕事をして、湯江家に帰る……そんな日々を送っております。
過保護過ぎやしませんかと何度も周りに言ってましたら、晃先輩から電話がかかってきまして。
「入院したいか?」
というお言葉に電話越しだと言うのに首を横に勢いよく振ってめまいを起こすという事態に、自分でも大人しくしていることを胸に決めました。
寮に寄って荷物を取りに行くと、重いからと大庭さんが持ってくれます。
時々片倉さんが顔を見せては自分の仕事がないとつぶやいていましたよ。
「何を言ってるんですか、そんな風に不抜けているとイザって時に動けませんよ!」
と大庭さんに怒られている片倉さんを見つつ……何とかカフェに寄ることを許可してもらって、久しぶりに学園のカフェのサンドイッチを食べました。
生徒会のメンバーのためにも買って、純君に取りに来てくれるようにお願いの電話をかけ終わった頃、若尾君がやってきました。
「や、やっと会えた……」
あれ? 探していたんですか?
「こんにちは、お久しぶりですね」
「アンタんとこの会長、何なんだよ!」
はい?
意味がわからずに聞いてみたところによりますと、何でも毎回追い払われていたらしいです。
私のアドレスがわからないので、生徒会宛に私へとメールなども書いたそうですが。
「一度も見ていませんね」
「くぅぅぅぅぅぅぅぅ」
若尾君がその場にしゃがみ込んでいると、その後ろで鼻で笑う声が聞こえました。
「あ、純君」
「差し入れありがとうございます、副会長」
「届けにいけなくてごめんね」
「いえいえ、むしろ呼んでいただいて良かったです」
純君はそう言うと私と若尾君の間に入り込みました。
「君が書いた副会長宛のメールは全て僕が削除させてもらったよ」
「なっ! 貴様!」
「言っておくけど、あれは生徒会全員が閲覧可能だってことわかってる? 一年生の仕事だとはいえ、たまに二年の先輩や会長だって確認するものだよ」
「私宛に来てたの? だったら見せてくれれば良かったのに」
純君は少々呆れたような顔をしてため息をついて、私の横の席に座りました。
「あの当時は色々あったので、陽向先輩宛のメールは全部消去されていましたよ。そもそもあのアドレスは個人宛で使われるものじゃないことは、学園の生徒なら知ってるはずですけどね」
「他に手が無かったんだよ! 生徒会にいけば会長に追っ払われるし、教室に行けば知らないおっさんに追い払われるし」
知らないおっさんって……もしかして片倉さんのことでしょうか。ちらっと自分の後ろを見ると片倉さんがいて、小さく頷いて居るのが見えました。
「えーと。それで私に用って何ですか?」
「え?」
「用があるから必死になってまで来たんですよね?」
「あ……そ、それは」
急にモゴモゴしだして、はっきりしません。
「言いたいことがあるなら、はっきり言う!!」
ちょっと気合いを入れようとして若尾君に叫んだら、目眩がしました。
あ、失敗。