第百八十二話 一歩前進です
久しぶりに和香とゆっくり過ごして、他愛もない話をしていると何だかホワホワしてきました。
まだまだ色々話したいことがあるのに、夕食もまだなのに眠いんです。
「和香……ごめん、何だかとってもねむ……い」
「うん、良いよ。ゆっくり休んで? また来るから」
「あり、がと」
そう言った後、意識がとぎれました。
目を覚ますとベッドで。
また誰かに運んでもらっちゃったんですね。
はぁ……とため息をついて横を見ると父が椅子に座っていました。
「お父さん?」
俯いて本を読んでいた父が顔を上げて、微笑むと私の頭を撫でてくれました。
「い、ま。なんじ?」
「午後十時だよ、何か食べるかい?」
また夕食の時間をすっぽかしてしまいました。
「お腹は減ってないの」
「せめてスープを飲もうよ、ね?」
父が真剣に言うので仕方なく頷くと、少ししてから運ばれてきたのですが、何故か父がスプーンで掬って“ふうふう”しました。
「はい」
にっこりと笑顔でスプーンを口元に持ってきましたが、お父さん私自分で食べれ……というか飲めます。
子供じゃないんですからと抗議しようとしましたら、有無を言わせないニッコリ笑顔。
はい。
抵抗せずに飲みました。
こういう時のニッコリを拒否すると怖いんです。
「美味しいかい?」
「うん」
胃の負担を軽くするためなのか、固形物は一切入っていないのです。でもきっと色んな野菜を煮込んで作ったのだろうと思います。さらりとしているのに濃厚でなおかつ舌に嫌な味が残らない、とてもおいしいスープでした。
「眠い?」
「そんなには」
「じゃあお医者さんを呼んでもいいね?」
「こんな時間に?」
いつも私を診察しているお医者さんが遅い時間だというのに別室で待機していてくれていたそうなんです。
大変申し訳なくて、すみませんと有り難うございますを繰り返し言い過ぎて看護師さんと先生に笑われてしまいました。
未だ貧血気味であることを除けば順調に回復しているとのこと。数日したら少しずつ体を動かしても構わないと言われました。
ただし貧血気味なので必ず誰か側についていてもらうことが条件ですが。
そんなわけで。
今までお断りしていた専属のメイドさんがつけられることになりました。
しかも特殊な訓練をされたメイドさんらしく、私一人なら軽々持ち上げられるという……ボディビルダーですか? 重量挙げ選手ですか?
練習のためにベッドのところで持ち上げてもらったのですが、それが本当にヒョイと言う感じで。
「軽すぎますよ。楽勝です」
と言われてしまいました。
男性ではないとはいえ、やはりお姫様だっこって恥ずかしいです。