第百七十九話 ややこしや
「フクロウと犬を合わせた生き物?」
「そう、我が社のマスコットキャラクターなんだけど……ぬいぐるみは最近できたばかりで、美奈がサンプルを見せてくれるとは言ってたんだ」
何故今なんだ……とブツブツ言ってますが、そんなことより大きい目がかなり怖いのですが。
「それより、これから機能をためしに外へ……」
ダーダーダーダッダダーダッダダーと某ダースべー○様のテーマ曲が唯一さんの携帯から聞こえてきました。
一瞬固まった唯一さんですが、取り直したように「これから外にでかけ……」と言い掛けると、未だ鳴り響く音に執事さんがニッコリ微笑みました。
「鳴っておりますよ」
「……わかってるよ」
しぶしぶといった様子で通話にすると、テーブルを挟んでいるにも関わらず、相手の声が私にも聞こえるくらい大きな音がしました。
〔なにしてんじゃ、ぼけぇ!!〕
「うるさいなあ、今、大事なとこで」
〔良いから今すぐ帰ってこんかい!〕
その後の声はぼそぼそして聞こえなかったのですが、この二つだけは聞き取れました。
誰からの電話なのでしょうか。
通話を切ると唯一さんは深くため息をついて「こんなチャンスなかなか無いのに……」と呟いていました。
「ごめんね、仕事が入ったみたいで帰らなきゃならないんだ」
「あ、はい。わざわざ有り難うございました」
「メンテナンスにはぜひ僕を……」
「違う方がいらっしゃるそうですよ」
執事さんが出口のドアを開けながらニッコリ。
「……。美奈のやつ……。くっ、仕方ない。また会おう」
唯一さんがぬいぐるみと共に出て行くとドアが静かに、しかし速やかに閉じられました。
「お茶を淹れ直しましょうね。お部屋にお戻りになりますか?」
「お茶を飲んでからにします」
「畏まりました」
スティック状のケーキが添えられて出てきました。 ここに来てから甘いものがやたらと出てくるんですけど、まさかこれで体重増加を狙っていたりしませんよね?
「何だうまそうだな」
「晃先輩」
ドアが開くと晃先輩が花束を持って入ってきました。
「どうしたんですか? その花束」
「お見舞いとくれば花束と決まっているだろう」
「え……、私にですか?」
「あぁ」
ピンクを基調としたかわいらしい花束でした。
「ありがとうございます」
「後でお部屋にお持ちいたしますね」
すぐに生けてくれるみたいです。
もう一人いた、カートを押してきた女性に花束を渡して別室へと運ばれていきました。
「ありがとうございます、執事さん」
「……陽向様、そろそろ名前を覚えていただけませんか」
「すみません……えーと」
「久保のことは覚えていらっしゃるのに……」
「だって何だかややこしいお名前で」
晃先輩の前にお茶を出し終えると私の横へ来て、とっても悲しそうな顔をするので、何とか思い出そうとウンウン唸ってしまいました。
「えーと、確か。カナギヤキさんでしたっけ?」
「木柳屋欅です」
「きやぎなきや……ううぅ」
「……キヤとお呼びください」
「すみません、キヤさん」
私たちのやりとりに晃先輩が忍び笑いをしていて、何処からか取り出したメモ帳にキヤさんの名前を書いてくれました。
「木柳屋の兄が確か“木柳屋 柳”だったな?」
「はい」
「きやなぎやなぎ?」
「き・や・な・ぎ・や・や・な・ぎだ……こら、考えるのを放棄するな」
「だって……」
近いうちにきちんと覚えますから、今は勘弁してくださーい!