第百七十六話 体調が悪いと心細いです
湯江家につくとすぐにお医者さんが来まして、点滴をうつことになり、貧血の気もあるということで横になるように言われまして今日一日仕事とか本を読むことを禁止されました。
熱は無いとのことですが、ぼんやり天蓋の天井を見ながら熱が出ていた時のような感覚にもやもやします。
「吐き気とかないか?」
「ありませんけど、何やら天井がグルグルしているような感覚が」
「目眩か。点滴が終わるのにまだ時間がかかる。少し寝ろ」
晃先輩に言われて、後ろに立っていたお医者さんが“うんうん”と頷いているのが見えました。
「あれか……自分は元気だと思っていたのに、計ったら熱があって途端に具合が悪くなるという現象か」
何ですかそれ。
「陽向は熱があっても動いていそうだがな」
「さすがに熱があったら寝てますよ」
「どうだか」
ふん……と鼻で笑われてしまいました。
目を閉じると暗闇のはずなのに、瞼の裏がチカチカしたりグルグルしたりと、人間って不思議だなぁと考えていたらいつの間にか眠っていたようで。
ふと目が覚めて横を向くと、晃先輩が椅子に座って私の手を握っていました。
「晃先輩?」
「目が覚めたか?」
すっと手が離されて、ぬくもりが消えたことに寂しさを感じました。
「気分はどうだ」
「グルグルするのはなくなりました」
「そうか、顔色が少し良くなったな。何か食べるか?」
「いえ、お腹は空いていません」
晃先輩は頷いて立ち上がると、部屋を出て行こうとします。
「何処、行くんですか……?」
「そんな顔するな、すぐ戻る」
ライトスタンドの側に置いてあった時計を見ると、午後九時でした。
結構眠っていたようです。
点滴のせいなのか、お腹は空いてないんですけどね。
上半身だけ起こそうとして、体が重いことに気づきました。
「あ、れ?」
眩暈はしないものの、腕に力が入りません。
そのまま斜めになって、戻ってきた晃先輩に心配をかけてしまいました。
「どうした? 大丈夫か?」
「すみません、起き上がろうとしたんですけど」
「無理をするな。ほら」
ひょいと体勢を直してもらいクッションに背中を預けると、ホッと息が漏れます。
「起きたばかりで眠くないだろうが、このまま何もせずに休んだ方が良いそうだ」
「わかりました」
「眠くなるまで、何か話そうか?」
「ふふふ、おとぎ話とか晃先輩できるんですか?」
「怖い話なら色々知ってるぞ」
眠れなくなるじゃないですか。怖い話は……いりません。
「そうだ。晃先輩は湯江さんをご存じだったんですか?」
「あぁ。母方の祖父さんが湯江家の長男の高校の時の担任でな」
「晃先輩は両方ともに教師の血が流れてるんですね」
晃先輩も面倒見が良いので、生徒に慕われそうですよね。
「知り合いと言えば、静の方が湯江家と親しいと思うぞ」
「なるほど。どちらも名家ですもんね」
「まぁ、それもあるが。静の祖父さんも湯江家の祖父さんも馬持ってるからな。話が合うんだろ」
馬と聞いて北海道で会った事を思い出しました。
「静も……貴雅も心配していたぞ。そういえば、学さん経由で一宮和香からも俺に連絡が来たぞ」
「和香が?」
「明日、体調が良いようなら連絡するといい」
「有難うございます」
皆に心配をかけてしまっているんですね。
早く元気にならないと!