第百七十五話 憔悴
部屋のドアが叩かれる音で驚いて飛び起きました。
どうやら突っ伏したまま寝ていたようです。
ドアを開けると真琴と真由ちゃんがホッとした様子で「おはよう」と言ってくれました。
二人に待ってもらって制服に着替えてから食堂に行って朝食を取ります。
食欲が無かったのでヨーグルトだけを食べて、とっても心配されました。
放課後の生徒会室には、理事長からお菓子やパンがたくさん届いて、何でもいいから食べるようにというメモも入っていました。全部手作りというところが理事長らしいですね。ありがたく生徒会の皆で分けて食べました。
「陽向ちゃん?」
芹先輩がとても真剣な表情で私の肩を掴みます。
「は、はい?」
「顔色良くないよ、今日は帰った方がいい」
「で、でも」
まだ仕事が終わっていませんし、途中で止めてしまうと皆に迷惑が……。
その時ノックも無しにいきなり生徒会室のドアが開きました。
「陽向!」
「えっ、晃先輩!?」
私服の晃先輩は私を見ると目を眇めました。
「帰るぞ陽向」
「えっ、あの先輩」
「芹」
「はい、わかってます」
「頼んだ」
二人で会話をして、私の手を掴むと晃先輩が引っ張ったので抗うと、ひょいと軽く抱えられました。何でしょう、今月はお姫様だっこ月間ですか?
「晃先輩、下ろしてください!」
「そんなに窶れた顔をして、何を言ってるんだ」
「窶れてません!」
「窶れてる。体重、急激に減ったろう」
ドキッとしました。
病院に行った時に量ったら、十キログラム減っていたのです。
「入院したくなかったら、生徒会の仕事は休め」
「だって……」
「それより後ろのやつを紹介しろ」
そういえば片倉さんと会ったことなかったでしたっけ? 片倉さんはどこからか見ていたとは思いますけど。
「えーと、護衛の片倉さんです」
「どうも、湯江家から派遣されている片倉です」
「俺は和泉晃。知っているだろうがこの学園の理事長の息子だ。湯江家から何か言ってきたか」
「そろそろ連絡来そうだけどね」
晃先輩は頷いて私を下ろしたので、やっと歩けると思ったら車の前でした。
「乗れ」
「何処に行くんですか」
「抱えられたまま乗りたいか?」
「普通に乗ります……」
二人に挟まれて後部座席に乗ると、運転手は久保さんでした。
「もしかして湯江家に行くんですか」
「あぁ。うちでも良いかと思ったんだが、あいにく男二人だし陽向専門に料理人がつくからと言われてな」
「せ、専門!?」
「どうせ駄々をこねるだろうから抱えて運ぼうということになって、修斗が行きたがったが今の状況で修斗が湯江家に行くと色々騒ぎになるんでな。俺が行くことになった」
駄々って……子供じゃないんですから。
「ほら、その口が子供じゃないか」
思わず口を尖らせていたみたいで、慌てて普通の口に戻しました。赤面です。
「陽向は明日から、寮ではなく湯江家から通ってもらう」
「そんな!」
「体調を回復させるために、医者と料理人がつく」
「そんなことしてもらう必要ありません」
「そんな頬が痩けた状況で言っても説得力はないな。鏡をきちんと見ているか?」
そう言って晃先輩が出した手鏡を受け取って自分の顔を見たのです。
それは、想像以上にげっそりと痩せた顔でショックで手鏡を落としそうになったのを片倉さんが受け取ってくれました。
「入院したくないだろう。だったら、言うことを聞け」
「晃先輩」
晃先輩は唇を噛む私の肩を優しく撫でて「本当なら入院させたいところなんだぞ」と呟きました。