第百七十三話 初めての寝坊
ふと目を覚ますと、窓がコツコツと叩かれている音に気づきました。
起き上がってカーテンを開けると驚いた顔の片倉さんが窓の外にいました。
「かた、くらさん? 何かありましたか」
「えーと。今日は休みか?」
「え?」
慌てて時計を見ると、すでに九時です。もちろん朝のですよ。
「あ、遅刻……」
そして片倉さんが驚いた理由もわかりました。
私、パジャマのままでカーテンを開けてしまいましたね。
「き、着替えます」
慌ててカーテンを閉めて制服に着替えました。
携帯を見ると生徒会からと先生からのメールと着信があって、今まで気づかなかったことなんてないのに、自分でもびっくりしてしまいました。
慌てて、まず先生に連絡を入れて。それから生徒会にメールをしました。
生徒会はすでにそれぞれ授業に行っているでしょうから、一応芹先輩の携帯にもメールを送っておきましょうか。
身支度を整えてからカーテンを開けると片倉さんがまだいまして。
「どうせここまで遅れたんだったら、朝ごはん食べていけば?」
「この時間に食堂開いているんでしょうか。平日に行ったことが無いので……」
「ま、行ってから考えても良いんじゃないか? 食堂開いてなかったら連絡して。外にいるから」
「わかりました」
鞄を持って食堂へ行く途中で寮監さんに会いまして、心配して様子を見に来ようとしてくれていたらしいです。
食堂は開いていると聞いたので、改めて先生と生徒会に連絡を入れまして朝食をとりました。
どちらにせよ一時間目には間に合いませんものね。
のんびりというわけではありませんが、しっかりと食べまして。
歯を磨いてから寮を出ました。
教室にはまだ入れないので、生徒会室で休み時間まで待つことにします。
その間、体育祭の仕事をしていました。
休み時間のベルが鳴ったので、移動しようとしましたらいきなり生徒会室のドアが勢いよく開きました。
「陽向ちゃん!?」
「あ、芹先輩」
「あ……じゃないよ。何かあった?」
「それが、その」
「うん?」
芹先輩が小首を傾げまして、呆れられるのを覚悟で言いました。
「寝坊……しました」
「…………は?」
「ですから、寝坊……」
「陽向ちゃんが?」
目を真ん丸にして言うので、珍しいなと思いつつ頷きます。
「はい」
「陽向ちゃんが、寝坊? いつも一番先に来る陽向ちゃんが?」
ありえない! と叫んで芹先輩が後ろから来た修斗先輩の腕を掴みました。
「修斗!」
「ど、どうした」
「陽向ちゃんが、寝坊したって!」
「は?」
「ありえないよね!」
芹先輩は修斗先輩から手を離すとウロウロと歩き出しました。
「ありえない……ありえない。むむむむ、陽向ちゃん! 今から病院に行こう!」
「え?」
「え? じゃないよ、体調悪いんでしょ!」
「いえ、特にそういうわけでは……」
「良いから病院!」
「いえ……あの、ですから体調は……」
「修斗、行くよ!」
「わかった」
修斗先輩はそう言うと私を抱えたのです。そうです、またお姫様抱っこです。
「車、呼んどいたよ」
横で片倉さんが言いますけど、いつの間に!?
「よし、急ぐよ!」
廊下を駆け出す修斗先輩の腕の中で、廊下にいた真琴と真由ちゃんに手を振りつつ「後で連絡するからぁぁぁ」と言ったのですが修斗先輩が速すぎたのできちんと聞こえたかどうか。
大丈夫なんですけど……本当に。