第百七十話 涙涙
「えっ!? 陽向ちゃん!」
速水君からケースを受け取りながら涙がポロポロこぼれ初め、それを鞄に入れる頃には嗚咽になり。
その場にしゃがんで泣こうとしたら、速水君に抱きとめられました。
倒れると思ったようです。
そのまま私は生徒玄関で誰かが来るかもしれない状況なのに、そのまま泣いてしまい。速水君は、ただ黙って背中を撫でてくれましたし、後ろにいるはずの片倉さんは何も言わずに待っていてくれました。
「何で、こんな時に来るのよ!」
「ひ、陽向ちゃん」
「寮の部屋まで我慢できると思ったのにっ!」
一旦決壊した涙は止まらずに、速水君に八つ当たりをしてブレザーの襟を引っ張ります。
「何で、こんな時に」
「僕が来なくても、誰かが来たと思うよ。ほら」
速水君が振り向いた先に、真琴と真由ちゃんが急いでご飯を食べて来たらしく、手には何かを持っていました。
「「陽向」」
近寄ってきた真由ちゃんの手には、お皿にラップがかけられたお握りが。真琴は小さめの鍋のようなものを持っていました。
「それ、陽向ちゃんにでしょ?」
速水君が言うと二人は何も言わずに頷きました。
「学食の人にお願いしたら、特別に作ってくれたの」
「疲れた時って、おにぎりが美味しいですよって。おまけにお味噌汁作ってくれたんだ」
泣くとお腹空くでしょう……真琴がそう言ったのを聞いて私は速水君の胸に額を付けたまま「うー」と唸りながら泣いてしまい、落ち着くまでに少し時間がかかりました。
真由ちゃんが持っているお皿にはお握りが10個。
たぶん私一人ではなくて、皆で食べれるように作ってくれたのでしょう。
「ごめんね真由ちゃん。重いでしょう」
「うん、重いから生徒会室行こう」
てっきり寮だと思っていたのと、はっきりと言った真由ちゃんに驚いて少々ポカンとしながら付いていきました。
鍵を開けて入ると、簡易のキッチンで真琴がお味噌汁を温めてくれます。
お椀がないのでマグカップになりましたけど、大きめのがあるので代用しました。
学食の方はたぶん、そうなるのをわかっていたのでしょう。具のお豆腐が小さく切られていました。お心遣い感謝します。
手を洗ってから片倉さんも交えて、お握りを皆で頬張りました。
ほんのり温かいお握りを食べていると、また涙がこぼれてきて。
「塩むすび、おいしい……」
泣きながら食べる私を、皆は黙って頷きながら手を撫でたり背中をさすってくれたりしました。
「おいひい」
お味噌汁でお腹も心も温かくなって。
「みんなともっと学園祭楽しみたかった」
「うん」
「忙しいって言いながら、色んなもの食べ歩きたかった」
「うん」
子供のように泣いて。
途中で、私の記憶は途切れました。
食べながら寝るって……本当に子供みたいですね。
次の日、寮の自室で目が覚めて。
悶えたのでした。