第〇十七話 戦士の休息?
顔を上げた猫目先生は涙目でしたが、鼻血が出ているわけでもなく、丈夫そうでなによりです。
斉藤さんから眼鏡を受け取って、ほっとした様子でした。
開いたドアから速水君が顔を出したので、ここで休んでいくことを伝えてからベッドへと向かいました。
「生徒会には僕が伝えておくよ」
「ありがとう速水君」
熱があると認識してしまうと、ドッと体が重くなってきました。病は気から……と言う言葉はあながち嘘じゃないようです。
上靴を脱いでベッドに横になると、深いため息がもれました。思っていたより辛かったみたいです。
目を閉じるともう一度ため息が漏れて、その後、話し声も気にならないくらい、ぐっすりと眠ってしまいました。
目が覚めて起きあがると、少し体が楽になっていました。腕時計を見ると、あれから一時間半は立っています。
慌ててベッドを降りてカーテンを開けつつ出ると、毛利先生がお弁当を食べていました。さすがに猫目先生はもういませんね。
「あ、起きた? どう調子は」
「少しよくなりました。昼食を取ればもう少し良くなると思います」
「そうね、栄養はしっかり取らないと」
もぐもぐと食べながら器用に話をする毛利先生……こういうのに慣れていらっしゃるようです。
「それでは学食へ行きますので失礼しますね。ありがとうございました」
「あ、待って待って」
引き留められて振り返ると、先生に額に貼っていたものを剥がされました。
からからに乾いていて、水分というものが見あたらないくらい役だってくれたのですねぇ。
「んー、このタイプちょっと色つくね。メーカー変えようかな」
そういってウェットティッシュで額を拭いてくれます。
「色がついているんですか?」
「若干青く……ほら」
拭いた後のウェットティッシュを見せてもらうと、確かに少し青い色がついていました。
「それから、保健室を出て行く前に、もう一回体温、計ってね」
「はい」
熱が上がっていないとも限らないということでしょう。
計り終えて見ますと、三十六度九分。
「んー、微妙なとこね。なるべく安静にすること。本当なら仕事をせずに寮に帰ることを勧めたいんだけど」
「分かりました、少し確認したいことがあるので、それが終わったら帰ることにします」
「あら、素直ね」
「明日ひどくなって寝込んだ方が、大変なので」
「そうね。あ、それから鞄は速水君が生徒会室に届けてくれるって」
どちらにせよ、生徒会に顔を出すことは速水君の予想通りなのでしょう。
「わかりました。それでは失礼します」
「お大事にー」
一礼してから保健室を出ました。
生徒会室へと向かうと、途中で真由ちゃんと会ったので驚いていると、迎えに来てくれたのだとか。
「昼食まだだよね?」
と言われたので頷くと、何故かホッとされました。
「何かあった?」
「うん、あのね。芹会長が理事長のところに行ったでしょう?」
「ええ」
「そこでね、陽向の苦情を伝えたらお詫びにって……」
生徒会室に入りますと、テーブル一杯にお重に入った食べ物が……。
生徒会に詫びをいれてどうするんですか理事長。
そこは篠田先生に……。
そこまで考えて、あの理事長が何もしないわけがないことに気づきました。
「篠田先生は?」
「うん、さすが陽向ちゃん。気づいちゃった? 今日のお詫びにって猫目先生と篠田先生、理事長宅にお呼ばれでお昼」
にっこり笑顔で芹会長が言いますけど、それお二人とも味がしないのでは? 全然お詫びにならないと思います。
「はい、陽向」
真由ちゃんがお茶淹れてくれましたけど、すでにお腹一杯な気分なんです。
しかし食べないと栄養補給できません。
意を決してお重の蓋を開けました。