第百六十六話 ぬくもり
湯江家に着くと、信三郎さんと奈津子さんのお父さん真太郎さんが玄関で出迎えてくれました。その周りに使用人の方達がたくさんいたのですが。
全員が一斉に頭を下げたのです。
私が着いたと連絡をもらったのか、泣きながら走ってきた奈津子さんが私に抱きついて、子供みたいに泣いているのをぼんやり見つつ、未だ頭を下げたままの皆さんに驚いていました。
父を見ると、父もさすがに驚いたらしく今度は片倉さんを見ました。片倉さんは肩をすくめるだけで何も言いません。
「あの……頭をあげていただけませんか」
父の言葉でようやく信三郎さんだけが頭を上げました。
「孫娘のためとはいえ、大事な娘さんを危険にさらしました」
信三郎さんが再び頭を下げようとした時に、奈津子さんが走ってきた所と同じドアから芹先輩が出てきました。
「芹先輩!」
「あぁ、良かった。怪我はないね? 陽向ちゃん」
「はい、元気です。芹先輩」
芹先輩は頷いて修斗先輩の前に来ると、修斗先輩の腕をポンと叩きました。
「間に合ったんだね。ありがとう、修斗」
修斗先輩が芹先輩に頷いた後、私を見ます。
「陽向、別室に家族が待っている」
修斗先輩の言葉にびっくりして父を見ると、父も驚いていましたから知らなかったようです。
信三郎さんを見ると、ゆっくりと頷いて自ら案内してくれるようでした。
「奈津子さん、大丈夫?」
ひっくひっくと泣いている奈津子さんの肩を撫でると、奈津子さんは頷いて離れてくれたものの手を繋いできてそのまま離してくれませんでした。
信三郎さんについて行くと、どうやら客間らしくドアを開けるとこちらに気づいた華さんが駆け寄って来ました。
「陽向!」
「華さん!」
奈津子さんと手を繋いだままで華さんに抱きしめられました。
「よ、良かった陽向」
華さんに抱きしめられて龍矢さんの顔を見て、父の顔を見ると父もやっと安心したのかホッとした顔をしています。家族のそんな顔を見て。私は気が抜けてしまったのです。
ふと目を開けると見慣れない物が目に入りました。「あれ? 奈津子さん、いつ手を離したの?」
横を向いてそれが天蓋付きベッドであることに気づき、椅子に座っていた奈津子さんに思わず聞くとまた泣いてしまったので困ってしまいました。
どうやら私は気を失ったようです。
お医者さんがすぐに呼ばれて、もう少し寝ているように言われました。
華さんに抱きしめられてからの記憶がないので、いきなり時間が飛んだような感覚です。
「奈津子さん」
「なあに」
「眠るまで手を握ってもらえる?」
「……もちろん」
ギュッと握ってくれて、その暖かみに泣きそうになりました。
「今、なん…じ……?」
「午後九時よ」
「そう……」
今日の学園祭はどうなったんでしょう。
今年は見たいところがたくさんあったんですよ。
明日……回れるでしょうか。