第百六十二話 もうひとり
「それで、私をどうするおつもりですか」
「どうするですって? 決まっているじゃない」
品川さんの周りに特に凶器らしきものは見あたりません。が、後ろにコンテナのような物があるので、その中にあるのかもしれません。
「そうですか。協力した方は出てこないんですか?」
「私自身が手を下さないと、姉さんに誉めてもらえないもの、彼らは貴方をここへ連れてくるまでが仕事よ」
本当かどうかはわかりませんが、今のところ他の気配はないようでした。
「水崎さんを連れてくれば、奈津子お嬢様は返していただけるはずでは?」
久保さんが後ろで大きな声で言いました。
「あら、そうだったわね」
「久保、黙りなさい!」
奈津子さんが震えながらも声をあげましたが、私は奈津子さんの腕をそっと撫でました。
「大丈夫よ、奈津子さん。私のためにも安全な場所へ行って」
「ダメよ、陽向さん」
「奈津子さん、ありがとう。でも、大丈夫だから」
「いや、いやよ」
私は奈津子さんに微笑んで見せてから、品川さんの方をみました。
「どうすれば良いですか」
「こちらに来てちょうだい、そしてこの中に入って」
やはりコンテナの中に入れられるようです。
「陽向さん、陽向、行っちゃだめ」
「入ってしまったら、奈津子さんが解放されたのがわかりません。扉は開けておいてもらえますか」
「良いけど、拘束はさせてもらうわよ?」
「構いません」
品川さんが開けたコンテナの中それも、奥に入るとコンテナの中にあるタイヤの中に重りをつけた紐と腕をつながれました。
逃走防止といったところでしょうか。
私が見えるように扉を開いて、奈津子さんに近づくとカッターでロープを切りました。
今のところ凶器はカッターですね。
解放された奈津子さんは久保さんの所まで走ると、私の方を振り返って泣いていました。
久保さんが半ば無理矢理奈津子さんを車に乗せると、倉庫を出ていきます。
私は車が見えなくなってから、ホッとして危うく脱力しそうになりましたが、品川さんが近づいてきたので警戒レベルをあげました。
「良いこと教えてあげるわ。倉庫を出てちょっとしたら、あの車彼らに囲まれるわよ」
「なっ!」
「彼らの目的は奈津子お嬢様。私の目的は貴女。利害が一致したというわけ」
久保さんと松岡さんが車に乗っているとはいえ、大勢だと苦戦するでしょう。
「さてと、どうしようかしら。ここまでは考えていたのだけど、この後のことを全然考えていなかったわ」
首を傾げながらニコリと笑った顔に、彼女に似通ったところを見つけて一瞬震えました。
「到着してから考えた方がいいかしらね?」
「到着? 誰か来るんですか」
「ええ」
そうして携帯の送信履歴を私に見せました。
そこには見覚えのあるアドレス。
駆けてくる音が近づいて、そして。
「陽向!」
父が。
肩を上下させながら荒い息を整えようとしている父が。
入り口に立っているのが見えました。