第百五十九話 お面の男と例の彼女
「お前、相変わらずなんだな」
「人間、そうそう簡単には変わらんだろうさ」
「そのお面は変えても良いんじゃないか?」
「これでも七代目のお面なんだがな」
トントンと縁を叩く音が聞こえましたが、間違いなくプラスチックの音です。
遠目ではありますが、新しいお面のようでした。
「生徒たちは操られているんですか?」
「いや、そうでは無いようだ」
生徒たちは私たちの会話を聞いて、リーダーらしき女性が前に出てきました。
「貴方には少々痛い目を見てもらわないといけないとのことです。庶民が随分と偉そうにしているそうではありませんか」
庶民というところは間違いはありませんが、偉そうにしているつもりはありません。つもりはありませんが、偉そうにしているように見えるのでしょうか。
ちょっとショックで涙目になっているところに、そのリーダーの号令で生徒たちがわっと寄ってきました。
片倉さん一人だったら簡単に逃げきれるでしょう。ですが、私という足手まといが居るわけです。
「松岡、陽向を連れて行け!」
私は松岡さんに腰を抱えられながら、必死に駆けました。
門のところへ行くと車がすーっと来て私たちの前に停まり、運転手席をみると久保さんが見えたので安心して後部座席に乗り込みました。
そういう手はずだったのだと思います。
ですが、乗り込んだ途端に久保さんが後ろを向いて眉毛を八の字にしました。
「申し訳ありません、水崎様」
「え?」
久保さんはそう言ったっきり、前を向いて出発しました。
途中で角を曲がった時に、松岡さんが訝しげな顔をしてバックミラー越しに久保さんを見ているのがわかりました。
「松岡さん?」
「…………行き先が違いませんか」
「申し訳ありません。こちらへ行くように言われております」
「誰に?」
その質問に久保さんは答えませんでした。
三十分強くらいでしょうか。
車が減速したかと思うと倉庫のような場所へと入って行くのがわかりました。
ガラガラという大きな音が聞こえて、シャッターが閉まって行くのだと分かった時、頭の隅で定番だなとのんきなことを考えてしまいました。
完全に車が停まりエンジンが切られると、久保さんが下りて私の方のドアを開けます。
「水崎様だけお降りください」
「私は水崎様をお守りする……」
松岡さんが私の腕を掴んで降りるのを阻止しようとしましたが。
「奈津子様の為です、松岡さん」
私たちは、ハッとして顔を見合わせました。
「水崎様」
「わかりました」
松岡さんに頷いて腕を放してもらうと、一人で降りました。
久保さんの視線の方向へと目をやると、そこにはタイヤを積んだ上に座った奈津子さんがいたのです。
「奈津子さん!」
「陽向さん! 来てはダメ!」
泣いていたのか、頬に跡が見えます。
そして、その後ろに。
「お久しぶりね? 陽向ちゃん」
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