第百五十話 何処で食べますか
お寺を出る時、保織さんと佐里君が見送ってくれたのですが、何とビルとビルの間にあるお寺でした。
「えーと……どこからどう行くとビル街に出るんでしょうか」
「まあさすがにそこは、秘密」
「……ここ、まさか里とか言いませんよね」
「違う違う。里に高い建物は二つくらいしかないから」
「二つはあるんですね……」
どんなとは聞きませんが、そろそろ情報漏洩止めませんかね。
歩きながら深くため息をつくと片倉さんがニヤと笑います。
「里はここから西に……」
「言わなくていいです」
再び深いため息をつくと、門前に車が停まっているのが見えました。
「お迎え早いな」
片倉さんが連絡してから、そんなにたっていないそうで運転席から出てきたのは久保さんでした。
頭を下げた後、笑顔で後部座席のドアを開けてくれます。
「お疲れでしょう、学園までお休みになりますか?」
「いえ、大丈夫です」
「学園に着くのは夜になります。どこかでご夕食をおとりになりますか」
「はい、ファミレスに寄ってください」
大きな道を行けば二十四時間のファミレスが何軒かあるはずです。
「湯江の名前を出せば、今からでも予約が可能なお店がありますが?」
「ファミレスで良いです」
「畏まりました。では、私がご一緒しても?」
「はい」
久保さんは小さく笑って頷きました。
久保さんがいれば、きっと予約のお店に行けるのでしょうけど。私は水崎陽向です。奈津子さんの友人とはいえ勝手に名前を使って言い訳じゃありません。
それに、ファミレスの方が緊張せずに済みそうですし。
「では、奈津子お嬢様もお呼びしてもよろしいでしょうか」
「え?」
「以前、ファミレスに言ってみたいと」
「あぁ……そういえばそんなこと言ってましたね。どっちのお店にせよ、奈津子さんは来るって決めていたわけですね?」
久保さんは何もいわず笑っているだけで、何処かへ連絡をした後、出発しました。
「何、奈津子お嬢様は今日がファミレス初?」
片倉さんが備え付けの小さい冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲んだ後、驚いて吹き出しそうになっていました。
「いえ、初ではないですけど。二十四時間のファミレスは初めてでしょうね」
以前行ったファミレスは午後十一時には閉まるところでしたし、行った時間は昼でした。
「信三郎さんに言うと、貸し切りにされちゃうらしくて」
「あぁ……なるほど」
貸し切りみたいにお客さんが自分たちだけ……というのと実際貸し切りとでは全然違います。
「でも、きっと半数くらいは護衛さんが入るんでしょうね」
「まー、仕方ないと思ってよ。あんたのためってのも入ってると思うからさ」
「分かっています」
今頃、十名くらいの護衛さんが普段の服装でファミレスに向かっているのかと思うと複雑な気分です。
「予約のお店の方が護衛しやすいんですよね……きっと」
「しやすい……っていうところは何処もないかな」
「そうなんですか?」
「いつ、誰が、どうやって、どれくらいの人数に襲われるのかを先に知ることは難しい。先に知らされていた情報が違っていた何てこともざらだ。だから俺たちはこうと決められた動きはしない、臨機応変に行かないと」
だから行きたいとこに行けばいい……なんて。優しすぎますよ片倉さん。