第〇十五話 生徒と教師
「守るに値しないと判断したら?」
「これだけの生徒の目があるなかで、そうならないことを願いますけど」
奈津子さんが悪い目をしてますよ!
口を挟もうとしましたら、こちらにウィンクが返ってきました。
あぁ、わざとですか。
「私たちは篠田先生がどんな先生か知りません。先生も私たちがどんな生徒か知りませんよね。だから、仕切り直して始めましょうってことです」
篠田先生がキョトンとした顔をしました。
「えっ、あ……」
「実はですねー、篠田先生。我が学園にはアイドル的な人がたくさんいまして」
「そ、そうなんだ?」
「時間がたてば、先生埋もれますよ」
奈津子さんの言葉に蓮見先生が吹き出しました。
「蓮見先生……」
篠田先生が困った顔で言うと、蓮見先生がお腹を抱えて笑い出したのです。
「あはははははは、埋もれるだって! わはははははは、埋もれちゃえ埋もれちゃえ」
「蓮見先生、悪意が入ってませんか」
「入ってない……くくくくっ」
蓮見先生の笑いにつられたのか、クラスの中でも笑っている生徒がいます。
「今までの学校がどうだったのかは知りませんけど、落ち着いてしまえば普通に過ごせちゃうってことなんですよ」
「そう、そうですか」
「ちょっとの間、不自由なだけです」
篠田先生は頷きました。
「泉都門学園をぜひ楽しんでください。見た目形からして変わった学園ですけど、なかなか面白い生徒がそろってますよ。ここを逃せば平穏な教師生活はなかなか見つけられないかと思われます」
ニヤリと笑う奈津子さんの言葉にクラスのみんなも笑っています。
「まぁ篠田。泉都門の生徒に育てられてみろよ。教師は生徒を育てるもんだが、教師も生徒に育てられるっていうじゃないか」
蓮見先生が偉そうにいってますけど、篠田先生の顔が明るくなったのでよしとしましょうか。
「一組には風紀委員の速水君がいるし、生徒会副会長の陽向さんもいます。心強いでしょ。蓮見先生はこんな体格ですが、脚が早いので駆けつけてくれることでしょう」
「こんなは余計だぞ、湯江」
蓮見先生の言葉にかぶるようにして終了のメロディが流れました。
「お前等、面白いからってのが本音じゃないだろうな」
「さてー、どうでしょう」
「ったく、俺はもう行くぞ。篠田、後はてきとーにがんばれ」
「あ、蓮見先生」
「じゃあな」
この後は帰りのホームルームだけです。
「蓮見先生、風紀委員の召集よろしく願いします」
私が声をかけると、手を挙げてくれたので伝えてくれるのでしょう。
隣で速水君が笑ってこちらを見ていました。
「色々忙しくなるね」
「そうね」
「陽向ちゃん」
「はい?」
「顔赤いけど大丈夫?」
「えっ?」
頬を押さえると少し熱いような気もします。
「ちょっとごめん」
そういって私の額に手のひらを当てた速水君は心配そうな顔になって奈津子さんをみました。
「どうしたの?」
席に戻ってきた奈津子さんが速水君を見た後、私を見て小さくため息をつきました。
「もしかして熱でた?」
「少し熱い」
速水君がため息混じりに言うので、近くの席の生徒がこちらを向きました。
「保健室行く?」
「もう帰りのホームルームだけだし、大丈夫」
「早めに行った方がいいよ、水崎さん」
前の席の御影さんが心配そうに言ってくれました。
「でも」
「速水君、保健室に連れてって。鞄持ってね。さっき蓮見先生に陽向さんが言ってたから風紀委員が来るでしょう。篠田先生のことはまかせて」
「わかった」
速水君と奈津子さんとでどんどん話が進んでいきます。
「大丈夫です、終わったら行きますから」
「油断大敵! どうせこの後、生徒会の仕事もあるんでしょう? だったら保健室へ行くこと」
「はい」
「よろしい」
奈津子さんと笑いあってから、鞄を持とうとしましたら速水君がすでに持ってくれていて。礼を言ってから私は席を立ちました。
「篠田先生には私が説明しておくから」
「うん、お願いね」
速水君と一緒に教室を出て、保健室に向かうことになったのです。