第百四十九話 少年
保織さんが紙に書いてくれた図によりますと、今日の仕掛けは全部で七つ。
今日の……と言うところを見ると、毎日違う仕掛けなのでしょうか。
「こことこことここに飛矢。矢とは言っても先に粘土をつけて布でくるんであるものだから、刺さりはしない矢です。ただし結構な早さで飛んでくるので、当たると痛いですよ。後、ここに落石。ここに落とし穴。最後に……油断したところで、ここに盥」
「タライ……ですか」
「そう、タライ。今日のは洗面器程の大きさですが、たまに大きいタライの時があります」
そんな話をしていると、遠くの方でゴーンという音と“痛っ”という声が聞こえました。
「話しているそばから、誰かタライを頭に受けましたね」
三人で本堂に行くと、先ほどの隠し扉からまだ若い……小学生くらいの男の子が出てきました。
「いっでーっ」
「油断しましたね?」
「あ、保織。今日のタライ、小さいけど重くね? ガッチン痛かったんだけど」
「真上から受けるからですよ。貴方はまだまだ詰めが甘い」
「ちぇー」
口をとんがらせて文句を言っている姿はまだまだ幼く、頭を自分で撫でながら……ふとこちらを見ました。
「あれ、見ない顔。片倉のこれか?」
小指を立てて見せますけど、誰です? そんなの教えたのは。
「お守り中の女子高生」
「いいなぁ。俺、年上好みなんだ。しかも可愛いじゃん! 片倉ずるい」
「一番の道を逆走できるようになってから言え」
「ちぇー」
相変わらず口をとんがらせたままトコトコと私に近づいて来ると、見上げて二カッと笑って見せました。
「ねーねー、片倉なんかやめてさ、俺にしない?」
「言っとくが、たぶん彼女はお前より強いぞ」
片倉さんが呆れたように少年に言っています。
「はぁ? 俺、負けねーし」
「初めてで、負傷なしのクリアですよ」
保織さんが言うと少年は目を見開いて私を凝視しました。
「えっ、マジ? げー。じじいの弟子?」
「じじい言うな。頭領だ」
こめかみをグリグリされて痛そうな顔をしていました。
「そもそも、お前名前を名乗ってないだろうが」
「あ、忘れてた。俺ね……えーと……うーんと……佐里だったっけ?」
「俺に聞くな」
片倉さんの嫌そうな顔に保織さんが小さく吹き出していました。私も思わず笑ってしまい、サリ君も照れたように笑います。
「まだ慣れなくてさー。うん、たぶん佐里。大佐の佐に里の里で佐里」
「佐里君ですね、私は水崎陽向です」
「陽向……へぇ。名前まで可愛いじゃん。モロ好み」
「強くなってから出直して来い」
「いひゃいいひゃい」
片倉さんに両頬を引っ張られて面白い顔になっている佐里君は、構われていることが嬉しいようでした。
痛いと怒りながらも、口元が笑ってましたから。
あれ……? 忍者から抜け出せない(汗)