第百四十七話 魅惑のゼリー
見た目はファストフードでしたが、色々な食事や飲み物を提供する場所のようで、特に人気なのがおにぎりだそうです。
「食べながら訓練できるからね」
サンドイッチを選ぶ方もいるそうですが、場所によっては具を落としてしまうらしく、それでもなおパンが食べたい方はトーストとかあんパンなどのパンを買って行くのだそうです。
ちなみに竹の水筒というメニューもあって、思わず頼んでしまいそうになりました。片倉さんに止められましたけど。
「このかんぴょう縄ってなんですか」
「ここから七つの訓練場に繋がってるんだけど、一番過酷なとこに行く奴の食料の一つ」
「……。片倉さんはこの後どの訓練場へ?」
「そうだなあ、目隠し外すから一番道にしようかと思ってる」
「一番簡単なのですか」
「一番っていうのは番号なだけで、難しさの度合いの番号じゃあない」
ニヤと笑って片倉さんはコーヒーを飲み干しました。一番難しい道でもなさそうですけど、この後目隠しを外したまま行くんですね。
「んで、何か頼まないのか? 俺食べ終わったけど」
メニューに気を取られて、そういえば何も頼んでいませんでした。って片倉さんカウンターで食べちゃったんですか。
「えーとえーと。チャーハンセットを」
「はい、デザートつけとくね。これ、美味しいから」
分からないまま頷いて……お客さんが少ない時間だったせいもあってすぐに出てきたトレーを受け取って四人掛けのテーブルへと行き、座りました。
そしてデザートをみた片倉さんの目が丸くなったのです。
「なっ、こっ、ちょっ、まっ!」
言葉になってませんよ?
一旦座っていた片倉さんが凄い勢いで立ち上がったかと思うと、カウンターの方へと行ってしまいました。
「いただきます」
美味しいチャーハンを食べ終えて、見た目はオレンジゼリーのようなデザートを口に入れました。
「美味しい」
オレンジよりは少し酸味が少なく、甘みがとろりとしていてゼリーというよりは葛湯のような食感です。
戻ってきた片倉さんが向かい側に座って私のデザートを食い入るように見つめるので、そんなに食べたいのかと半分ほど食べてしまってはいましたが、片倉さんの前にお皿を移動させました。
「食べますか?」
「……。いいの?」
「はい、美味しいですよ」
片倉さんはスプーンを持つと一口一口もの凄く丁寧に味わっていました。
「あの~。もしかしてこれ珍しい物だったりします?」
「うん。七つの訓練場のうち一番過酷な所にある岩のてっぺんにしかない、しかも毎年五つくらいしか収穫できないと言われる柑橘類のゼリーなんだよ、これ」
生っている時期にその場所へは行ったことがないそうで、今年はこれが最後のゼリーだとか。
メニューには載らない特別な物だそうで、もちろん値段は時価。五つ以上生っているのですが、そこに生息する動物に採られている場合もあるそうで。
「はぁ、祖父さんに迷路を通って帰れって言われた時には面倒くせーって思ったけど、これを食べれたのは良かった」
この柑橘類は採りに行った人の自由になるんだそうです。だから全部を独り占めしても良いしお店に売っても良くて、昨年は一個も出回らなかったのだとか。仕方ないですよね、一個しかなかったそうですから。
訓練場を一人で通れないであろう私が半分とはいえ食べても良かったのでしょうか。
「初めて来た奴には、入荷していたら出すのがルールっていうか……まぁ大抵はその前になくなるんだけど」
「あぁ、もしかして食べたかったら自分で採りに行け……と?」
「まぁ、そんな感じかな」
初めて食べる時には無料。次回は時価だそうです。
確かにまた食べたくなる美味しさではありますが、私は採りに行けないですよ片倉さん。
スマイルゼロ円のお兄さんに、新人の仲間だと思われた模様……w