第百四十五話 帰りは迷路
彼女……と聞いて思い出すのは二人います。
どちらの彼女でしょうか。
どちらにしても、ため息が出ることにかわりはありませんけどね。
「どちらの……とお聞きしてもよろしいですか」
「どちらも……と答えようかのぅ」
それぞれ別に動いているので彼女たちとあえて言わなかったようです。
「父ではなく?」
「父君ではなく。嬢ちゃんを捜している」
ぞっとしました。
「まだ学園にいることは知られていないようだが、時間の問題だろうのぅ。人の口に戸は立てられない」
学園はセキュリティが厳しいので入れないとは思いますが、生徒会の仕事で外出することもあります。
「行動を見張らせてはいるが、学園の関係者と知り合いじゃないという保証はないのでのぅ」
どちらも事件からだいぶ時間がかかっているはずなのに、何故今更来るのでしょう。
不思議に思っていると、片倉さんが教えてくれました。
「昨年、あんたの父親の写真が流出しただろ。あれの残りが出回ってたんだよ」
手をつないでいる写真でしたっけ?
それを見て火が点いたと。
ため息しかでませんね。
「ともかく、学園内でも一人にならないように気をつけるのじゃ」
「はい、分かりました」
次に会うときには郷田さんの方から来てくれるとのこと。ん? では今日ここじゃなくても良かったのでは?
「はよう会いたいと言われたのでな」
「あ、そうでした」
片倉さんの口の軽さを何とかしてもらおうと思ったのですが。
「どうにもならん。さすがに最高機密までは話さんじゃろうて」
そうですか? いつかポロッと言いそうな予感がしますよ?
「聞いたら、嬢ちゃんを里に入れるだけじゃ」
それが目的でペラペラしゃべっているんじゃないでしょうね、片倉さん。
ジロッと睨んでみると、片倉さんは素知らぬ顔で口笛を吹いていました。
「帰りは違うルートで行くと良いじゃろう」
郷田さんはそういうと、一人掛けソファを動かしました。そしてそこにはポッカリと入り口が出来ていたのです。
「ここは迷路になっているからのぅ、一人では入らんように」
目隠しをされたうえ、片倉さんにお姫様だっこされました。
迷路の曲がる順番などを覚えないようにということなのでしょうけど、背負っていただいた方がよろしいかと……。
「背中だと目隠しを外されても気づきにくいし」
「外しませんって」
「ま、こっちの方が守りやすいんだ」
否応無くそのまま下へおりると片倉さんは走り出しました。
ヒュンヒュンと時々音がするのですけど。
な、何か飛んでます?