第百四十三話 たどり着いた場所は
廊下の壁は廃病院の奥にあるとは思えないほど近代的なのに対し床がゴムみたいな素材で出来ていて音があまり出ないようにしてるようです。
あ、でも近づいてよく見ると、音が響かないような素材になっているようですね。
「えーと、ここ何処ですか」
「焦らない焦らない。この先だから」
五十メートル程行ったところで右に曲がり、後は百メートル弱程だったでしょうか。
白いドアがあって、能面の女性がそれを開けました。
出た場所は和室……。
普通のお宅の和室でした。
能面の女性が扉を閉じると、そこは仏壇になっています。
「な、なななな」
「はいはい落ち着く。ここは通路用の家だから、仏壇の形を成してはいるけれども、仏はいない。この位牌も架空の物で小道具みたいなものだからね」
和室には誰もおらず、襖を開けるとリビングがありました。本当に普通の家みたいです。ですがやはり誰もいませんでした。
「モデルルーム? でも若干生活感がありますね」
「はははは、たまに人が住んでいるようにするから。ぱっと入ってきても生活感あるように見える工夫がされてる」
誰かが住んでいるようにみえるのですが、それにしては何もかもが綺麗すぎるんです。
「潔癖性の方がいるにしても綺麗すぎる様に見えます」
「うーん、やっぱそうか。ヨゴシを呼んどく」
「わざわざ汚すんですか? せっかく綺麗なのに」
「んー。それじゃ、あんたがここに住む?」
「お断りします」
ソファに座るように促されて素直に座ると、能面の女性がお茶を出してくれました。
「それで、こちらにお祖父さんがいらっしゃるんですか?」
「もうおるぞ」
しわがれた声がして、隣を見ると真っ白い上下のスーツを着た男性が座っていました。胸元に赤いバラがさしてあります。ホストですか……。
「えーと片倉さんのお祖父さん……ですか?」
「あれ? ワシ、呆れられてる?」
「祖父さん……だからそれは皆に不評だったろ」
「若い子が来るって言うから、張り切って来たのに」
そう言って立ち上がって私の向かい側に座るときには、黒い服に替わっていました。体にフィットした伸縮性のよさそうな服です。
びっくりして固まっていると、能面の女性の腕に白いスーツがかかっていました。
「さて、つかみはよし。片倉の祖父の郷田じゃ」
つかみは全然よくないです。
父方の祖父だと聞いていましたので名字が違うのが不思議に思いましたが、そういえば片倉というのも偽名でしたもんね。郷田も偽名なのでしょう。
「ちなみに、郷が名字で田が名前じゃ」
「田ってどんな名前ですかっ!」
「おおぅ、素早いツッコミじゃのぅ」
思わず立ち上がってしまったじゃないですか。
「どうどう。落ち着いて。はいはい座る」
片倉さんに肩を叩かれて座り直しお茶を一口飲むと、目の前にいるお祖父さんはニヤと笑いました。その笑い方、片倉さんにそっくりです。あぁ逆です片倉さんが似てるんですよね。