第百四十話 寮の食堂で
次の日、目が覚めて身支度を整えた後。
カーテンを開きますと、ガラスの向こう側に片倉さんがいました。
ため息をついてから窓を開けます。
「どうも」
「……おはようございます。少々心臓に悪いので事前に連絡をいただけると助かります」
ベランダみたいなものはなく、少しだけせり出している部分があるだけです。よくそこにいられますね。といいますか、いつから居たんですか。
「さすがに女子寮内には入る許可下りなくて。まぁ身内じゃないし」
だからって窓に張り付くのもどうかと思うのですけど?
「ところで今頃は例のお店に並んでいる時間では?」
「あぁ。あいつに行かせた。そもそもあいつがイタズラで掛けたのが悪いんだからさ」
あいつ……というのが未だに誰なのか知りませんが同僚というのですからゼロの一員なのでしょう。だとすると迂闊に名前を教えられないのでしょうね。
私も聞くつもりはありません。
「祖父さんが、あんたを里で匿おうかと言っていたんだけど」
「ご厚意はありがたいですが、全力でお断りします」
里、里って里ですよね?
忍者の里に行っちゃったら、諸々見ざる言わざる聞かざるを発動しなくてはならなくなるではありませんか!
だから、私に重要なことをさらっと教えるようなことしないでください!
王様の耳はロバの耳~と叫びたくなったらどうしてくれるんですか。
「まー、ともかく近いうちに祖父さんに会ってくれよ」
「それは……良いですけど」
「ゼロの頭ではあるけど、里の頭ではないから大丈夫」
だから……重要なことさらっと言っちゃってますって!
思わず挙動不審になったではありませんか。
「あのですね、片倉さん」
「あ、誰か来る。それじゃ、また」
「あ、ちょっとっ」
片倉さんが消えたと同時に部屋のドアがノックされました。
奈津子さんと真由ちゃんと真琴の三人で、朝食を食べに行こうとお誘いに来てくれたみたいです。
「どうしたの、朝から疲れた顔して」
「なんでもない」
片倉さんは、どうしてああも軽いのでしょうか。
片倉さんのお祖父さんに会いましたら、少々お話をしたほうが良さそうです。
食堂で朝食を取っていると、女子生徒が集まりだしました。
そろそろ込み始めるころですから、部屋に戻りましょうか。
四人で食堂を出ようとした時でした。
「水崎さん?」
制服を着ていないので確かなことはわかりませんが、どうやら三年生のようでした。
「はい、水崎ですけど」
「貴女、御前の何なの!?」
一瞬食堂がシンとなりましたよ。
知らない人は“御前”と言われてもわかりませんよね。
「何なのと言われましても。友人のお祖父さまですけど」
キッと睨まれましたけど、それが真実ですし。
三人に背中を押されて、そこはそのまま部屋に戻りました。
「まさか学生にファンがいるとは思わなかった」
「あれじゃない? 母親か祖母がファンだとか」
「ありえるね」
どちらにせよ、気の抜けない日々になりそうです。