第百三十六話 お祝いに
開場されて、たくさんの人があの観音開きのドアから入っていくのを二階の窓から眺めているところです。
用意が早めにされたので、てっきりすぐに会場に行くのかと思いきや、始まる時間になってもまだ動きません。
「奈津子さん、まだ行かなくていいの?」
「私たちはお祖父様が会場に行った後で良いのよ。あ、それから片倉さん。さすがにパーティ会場で半径一メートルは大変だろうから、握手以外で触れようとする人がいたらってことで良いかしら」
「わかりました」
パーティが始まって、乾杯がされる前に私たちは会場に入りました。
未成年ですので乾杯もジュースとなりますが、そのジュースが美味しくて驚きました。
ジュースってジュースじゃないですか……と言っても何だそりゃと言われてしまいそうですが、美味しさの上限があるというか、感動するとまでは行かないと思うんです。
ところがこのジュースは感動するくらい美味しかったのです。一人で感動していますと奈津子さんが不思議そうに私の顔を見ています。
「どうしたの陽向さん」
「こっ、このジュース美味しいですね」
「あぁ。これは契約している専用農場で作られた……」
うんぬんという説明が続いていましたが、私はうっとりと味わっていてほとんど聞いていませんでした。
「そんなに気に入ったのなら、陽向さんの部屋に後日届けるわ」
だから落ち着いてねと言われてしまいました。
すみません……挙動不審だったでしょうか。
「さ、そろそろお祖父様のところへ挨拶に行きましょうか」
久保さん先導の元、人の合間を縫うように歩いて信三郎さんのところへと移動しました。
「お祖父様、おめでとうございます」
「奈津子、ありがとう」
ハグをした後、にっこりと微笑みあっています。
奈津子さんがこちらを見たので、頷いて信三郎さんの側に行きました。
「信三郎さん、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、陽向さん」
握手をした後、信三郎さんに軽く引っ張られたので驚いていると後ろから支えられて動きが止まりました。
「おや、奈津子。私は例外にしてもらえないのかな」
「お祖父様が一番危ないような気がするわ」
私を支えてくれたのは片倉さんで、信三郎さんはどうやら奈津子さんと同じようにハグをしようとしたようでした。
「残念」
くすくすと笑って信三郎さんは手を離してくれました。
「着物、とても似合っているよ」
「ありがとうございます」
「一緒に写真を撮ってもらえるかな?」
信三郎さんのお願いで、私と奈津子さんに挟まれてニコニコ笑う信三郎さんの写真が撮られました。
周りがざわざわと騒がしくなっていましたが、人が増えてきたせいなんだろうと思って気にせずにいたのですが。
パーティの後も、騒がしくなる……これが始まりだったとは気づけませんでした。