第百三十四話 素顔のままで?
休憩中の護衛の方が上司らしき人に怒られている中、片倉さんが耳に手をやりました。通信機器に何か入ったのでしょうか。
「あー、そろそろ時間的にやばいみたいです。行こうか。お取り込み中悪いけど、奈津子お嬢様のお呼びなんでね」
上司の人が何か片倉さんん声をかけようと振り向いた時、久喜さんが顔を上げて呟きます。
「大丈夫です。ゼロですから」
どうやら警護の方にはゼロといえば通じるようですね。
二人で廊下に出て奈津子さんのもとへと向かっている時に、ふと隣の片倉さんの顔を見ました。
「あーあ」
と呟いたので驚いていると、私の顔を見てニッと笑いました。
「やっぱり、顔ばれは良くなかったですよね?」
「まぁ、顔は何とでもなるけどさ」
何とでもなる……と聞いて一瞬整形を想像してしまいました。
「あ、違う違う。今、考えたの違うから」
「ち、違うんですか」
「忍者の技術の中に、変装も入ってる」
「変装……ですか」
変装というと服だけかと思いきや、顔の印象を変える技術があるそうです。
「片倉さんの顔でも変わりますか」
「そんなに濃い顔してる? ちょっと傷つくなぁ」
濃い……というわけではないのですが、目を引く容姿ではあると思います。
「ゼロ内では、目立たない男がモテる」
「そうなんですか?」
「生き残りやすいから」
「なるほど」
昔は“ばれる”ということは死に直結していた時代もあったでしょうから、そうなのでしょうけど。
「今の時代でもですか?」
「……今の時代でもだよ」
ふと悲しげに笑うので、それ以上聞けなくなってしまいました。
「すみません、私のせいで」
「あ、違う。さっきの呟きは何ていうかな……祖父さんの思い通りに事が運んでいるようで面白くなかったというか」
「思い通りとは?」
「護衛もしくは警護をするにも、他の部と連絡役ってのが必要で。それを俺にやらせたいみたいでね」
なるほど。顔がばれると他の人には任せられないので片倉さんがやることになると。
「あんたにつけられた時点で、決められていたみたいだな。安請け合いするんじゃなかったかも」
女子高生の護衛ができるというので、二つ返事したそうです。
軽い、軽すぎですよ片倉さん。
「いや、厳ついおっさんよりは可愛い女子の方がいいだろ?」
車の中に運転手と護衛対象と三人で、しかも特に話もせずに長時間座っていることを考えてみろよと言われて、想像してみました。
「熟睡できそうです……」
「だろ? あんたは色々話をしても嫌がらないし、楽っちゃ楽だったんだけど」
無言で長時間って拷問ですよ拷問。
「面倒でも変装していけって言われていたのに、守らなかった俺が悪いんだけどね。これで窓口決定かー」
今、さらりと言いましたけど。
それが素顔ってことですよね。
だから、片倉さん。
私に重要なこと話し過ぎですってば!