第百三十三話 涙もろい?
軽くお昼をいただいて、落ち着いてから警護をする方達の控え室へと行きました。
さすがにもう松岡さんは泣いていませんでしたが、目が赤くなっていました。
「あの~」
「あ、水崎様」
「先ほどはすみませんでした」
「とんでもありません! こちらこそ職務を途中で放棄するようなことをしてしまって」
キリリとした顔で松岡さんは体を直角にして頭を下げました。
大きな声で言うのものですから、奥から数人護衛の方が出てきました。
「松岡、何事だ」
「あ、先輩。こちらが水崎様です」
先輩と呼ばれた男性はこちらに近づいて来ようとして、途中で歩みを止めました。
「これ以上は近づけないようですので、ここから失礼します。久喜と申します」
近づけない?
一瞬わからなくて首を傾げてしまいましたが、後ろに人の気配がしたので納得しました。
「片倉さん……」
「一メートル以内に近づけるなって言われてるもんでね」
ため息を付くと、片倉さんは肩をすくめてニッと笑いました。
「実は、松岡から話を聞いたのですが。泣きながら話すもので、いまいち我々に伝わらなかったのです。もしお時間があるならばお話していただけませんか」
何度も話そうとしたらしいのですが、その都度嗚咽で話ができなくなったそうです。
「それは……良いですけど。警護の方は?」
「こちらは休憩中です。もちろんすぐに出る用意はしておかなくてはなりませんが」
「そうですか?」
それでは……ということで再び同じ話を休憩中の七名の方にお話することになったのでした。
その結果。
「あの……片倉さん」
「ん?」
「湯江家の護衛さんって大丈夫ですか」
「……大丈夫、かねぇ?」
うずくまって肩を震わせている人、目頭を押さえてうつむいている人など。
しかも松岡さんがまた号泣しています。
何だか心配になってきました。
「これ、どうしたらいいでしょうか」
「エー……こっちに言われても困るんだけど」
二人で困っていると、私たちも入ってきたドアがいきなり開きました。
「何だこれは!」
それはそうですよね。
「失礼ですが、お二人は? あ、っと。え、あの入れてくれませんか」
「あー、ちょっと待ってね。はい、お嬢さんはこっち」
私は片倉さんに部屋の奥へと連れて行かれて、入り口の方がようやく入ってきました。
「久喜……何があったんだ?」
「くっ、すまん」
「いや、すまんじゃ説明になっていない」
全員がようやく整列できたのが十分後でした。
「久喜。説明しろ。休憩中とはいえ、何だその体たらくは」
私が泣かせたとは説明がし辛いのですが。
「ところで片倉さん」
「ん?」
「こんな部屋の隅で、何かあった時に逃げられないと思うのですが?」
「ほほぅ? 拙者に意見するつもりですかな?」
「キャラが変わってるんですけど」
「きちんと考えてるって。ほら、上」
「上?」
指さされる先である上を見ると換気口が目に入りました。
「言っとくけど、普通の人は出入りできないからね。仮に入ったとしてもすぐに捕まるよ、ゼロに」
「ここも使うんですか」
「まぁ、ここだけの話。そいういう風に作られている」
昔のお城の地下通路みたいな役割なんでしょうか。
まさか頭上にあるとは思いませんでした。
でも、これ秘密事項ですよね。
やっぱり聞いてはいけないことを随分と聞いてしまたような気がします。