第〇十三話 生徒会室で
篠田先生は少し逡巡した後、私の顔をじっと見つめます。
「僕は……教師を続けたい」
「わかりました」
私は携帯を取り出すと、奈津子さんに電話をかけました。
「もしもし奈津子さん? ええ……はい。そうです。はいお願いします」
通話を切って私はにっこり微笑みました。奈津子さんが今頃一組のみんなに話をしているでしょう。
「さて篠田先生。もう逃げられませんよ」
「……陽向ちゃん悪役みたいなセリフになってるよ」
「この場合ヒーローは誰です?」
「うーん……」
全員が悩みだしました。
あの、別にいなくても良いんですけど。
「今、一組のみんなにお話をしてもらっています。もう少ししたら教室に行きますよ」
「えっ」
「このまま帰るつもりですか?」
「いや、それは……」
「クラスバッジもまだ配っていませんし」
「あ……あぁ。そうだったね」
「というわけで、蓮見先生」
「んあ?」
まだ考えてたんですか? もうヒーローは良いですよ。
「よろしくお願いします」
「へいへい、了解」
「返事は一回で、きちんとですよ」
「……はい」
「よろしい……なんて、これ一回言ってみたかったんです」
「……水崎、お前が教師になったらどうだ」
「大変そうなので遠慮させていただきます」
「教師を目の前に言うか、お前は」
「蓮見先生なら大丈夫ですよ」
「ど・こ・が・大丈夫なんだ、あぁ!? 毎日毎日俺がどれだけ……」
「愚痴はよそでお願いしますね。生徒会だって大変なんですよ」
「それはもちろん知ってるが……って学校の愚痴をよそで言えるか! なんだその顔は。お前たちがギリギリまで頑張ってるのくらい知ってるぞ。無駄に見廻りしているわけじゃない」
芹先輩と修斗先輩と私は、思わず蓮見先生をまじまじと見てしまいました。
「な、なななんだ」
蓮見先生が後ずさったところへ、一年生二人が入ってきました。
「お疲れさまでーす」
蝶ヶ原康之介くん、どこ行ってたんですか。
いえ、その前に山影純君が持っている大荷物を何故君が半分持ってあげてないのです?
純君がテーブルに一部の荷物を置いた後、ソファにも置きました。
どうやら半分は食べ物のようです。
「あ、陽向先輩。えーと、あの、何かありました?」
「……康君」
芹先輩が珍しくニッコリ笑顔ではなく真面目な顔で、蝶ヶ原康之介君に声をかけます。
「は、はい芹会長」
「仕事以外で出るときは、一応連絡してって言わなかったっけ?」
「は、はひ言われました!」
「で、これらは何?」
「は、はい。後藤田先生に頼まれました」
「後藤田先生か……」
「ということは」
芹先輩と私は思わず顔を見合わせました。
こういう時、たいてい……。
「荷物は来たかー」
バーンと音がしそうなくらいの音をさせて後藤田先生が登場です。
「後藤田先生……」
「な、何かな……水崎」
私が右手を出すと、握手をしてこようとするのでペシリと叩きました。
「お金です、これ生徒会のお金で落とそうとしてもだめですよ」
「顧問が使い込みするつもりですか」
「いや、だってそれはお前たちへの差し入れで」
「先生の指示ですよね?」
「……」
「ボクたちがポンポンお菓子を買ってると思われるじゃないですかー。きちんと決められているの知ってますよね金額」
それ以外のお菓子はほとんどが持ち込みです。後、理事長からの手作りの差し入れですね。
「話がそれました」
「……そうだな」
「ともかく、後藤田先生はそこに正座ですよ」
芹先輩がソファを指しました。
「仕方ないから、生徒会全員と後藤田先生とで割り勘にしよう」
ここにいない真琴と真由ちゃんには申し訳ないですが、仕方ありません。
「真琴と真由ちゃんには連絡しておきますね」
「お願いねー。ところで風紀委員は速水君だけ?」
あ、そういえば速水君も一緒に来たのでした。
何も発言しないので、忘れていましたよ。