第百二十七話 闖入者
さすがに今から着物を着ることはありませんでしたが、その代わりに部屋で待機することになりました。
なるべく部屋をでないようにと言われて奈津子さんは何処かへ行ってしまいます。
手持ちぶさたなので奈津子さんが用意してくれていた本を読んでいました。
しばらくするとノックの音がして、お茶が運ばれて来ました。そしてお茶を運んできてくれた女性がドアを閉めようとした時でした。
「へぇ。ここにいたんだ? 客間だと思ってたから見つからない訳だね」
ハッとした女性が扉を閉めようとしたのを強引に入って来て私の前までくると男性はニヤリと笑いました。
「ここは奈津子さんのお部屋ですよ」
「知ってるよ」
ふん……と鼻で笑って立ったまま座っている私を見下ろしています。
「失礼ですけど、どちら様ですか」
「相手に名前をなの……」
自分からなのれと言いたいことは分かりましたが、それを遮って私は立ち上がりました。
「断りもなく入室してきたのはそちらですよ」
「我がもの顔かよ」
我がもの顔をしているのはそちらだと思うのですけどね。
小さくため息をついて、お茶を運んできてくれた女性にお礼を言うと、その女性は私に目配せをして出て行きました。
誰かに伝えてくれるのでしょう。
どれくらいかかるかは分かりませんが、それまでの辛抱でしょうか。一分でも早く来てほしいものですね。
ここへ来られるということは湯江家の縁の方なのでしょうけど、奈津子さんが何も言っていなかったので来ることを知らされていなかったか、ここまで来るとは思っていないかでしょう。
「水崎陽向です」
面倒なので名乗っておくと、聞いているのか聞いていないのか私に運ばれてきたお茶を勝手に飲み干しました。ポットから注いでおかわりまでしています。
「それで、あなたはどちら様ですか」
「俺? 聞きたい?」
別に……と言いたいところですが、それはそれで面倒になりそうです。無言で居ると、相手はムッとした顔をしてカップをガチャンと音を立てるくらい乱暴に置いて私を睨みました。
「俺は……」
男性が口を開いた時でした。
扉がバンッと音を立てて開いたかと思うと、奈津子さんが凄い形相で入ってきたのです。
「いーずーみー!!!!」
どうやら“いずみ”さんとおっしゃるようですね。
「げっ、奈津子」
「げっ、じゃないでしょう!」
奈津子さんはいずみさんの襟元を掴むと揺さぶります。
「ぐ、ぐるじい」
「貴方、何を考えているの!? 今日帰って来ないはずでしょう」
「いつ帰って来ようと俺の勝手だろ!」
「私の部屋に勝手に入る権利はなくってよ!」
えーとこれは、止めるべきでしょうか?
「ぐるじいっで」
首しまってますよ、奈津子さん。