第百二十六話 食堂にて
驚きました。
奈津子さんが住んでいる家って別宅だったんですね。
本宅って何て言いますか、ここ日本ですか? と聞きたくなるような家でした。
以前、御影さんの家にも驚きましたが湯江さんの家は門から家まで着くのに車で約五分かかりました。
後から聞いて、そこも敷地内だと知ったのです。
敷地内を移動する使用人の方は昔、敷地内の多少近い場所へ行く場合は自転車を使っていたそうです。
現在はセグ○ェイを使っている部署もあるとか。
セ○ウェイ乗ってみたいといったら笑われました。乗ってみたいですよね?
玄関も私の知っている玄関ではありません。明らかに四倍はあろうかという二枚の両開き扉です。
低い階段前に車が付けられるようになっていて、降りる場所に赤い絨毯が敷いてありました。
「普段はないのよ?」
とは言いましても、一般人の玄関前に赤い絨毯敷かないですから。
しかもその両側に花が置いてあって華やかですね。
まさかこんな早朝にここまでパーティっぽくなっているとは思いませんでした。
「陽向さん、こっちよ」
その大きな扉ではなく、別に家族が使うドアがあるそうで、そちらから入りました。
「奈津子様」
白いエプロンを付けた人が近づいて来ました。
「こちらが水崎陽向さんよ」
「お待ちしておりました水崎様。私、崎谷と申します。奥様から食堂へお通しするようにと言い使っております」
「そうね、まずは朝ご飯を食べましょう。陽向さん」
そういえば朝食を取っている時間ありませんでしたものね。
崎谷さんについて行くと、家族専用らしい食堂へと通されて朝食をいただきました。
「お祖父様は?」
「まだお休みでございます」
「昨日、青山神家から着物が届いているはずなのだけれど」
「はい、お部屋の方に」
結構遅い時間だったのに、届けてくださったのですね。
今日でも良かったでしょうに。無理をさせてしまったのではないでしょうか。
「今、奥様がいらっしゃいます」
連絡を受けたらしく崎谷さんが一礼した後、すっと食堂のドアを開けました。
「おはようございます、奈津子さん」
そう言いながら入って来たのは、シンプルなグレーのスーツを着た女性でした。
「おはようございます、お母様」
「そちらが水崎さんかしら?」
「はい、水崎陽向さんです」
私は慌てて立ち上がって礼をしました。
「初めまして、水崎陽向です」
「初めまして。奈津子の母、湯江佳奈子です。どうぞおかけになって。食事中にごめんなさいね」
どうやらこの後すぐに出かけてしまうらしく、食事をするためではなくて私と奈津子さんの顔を見に来たようでした。
「父のわがままで色々ごめんなさいね」
「いえ、大変お世話になりまして。お礼をしたいと思っているのですが、何をしていいのか分からないんです」
「父の道楽が入っているからいいのよ。つきあってもらって、こちらこそお礼がしたいくらいなの。最近うきうきしちゃって。本当に困ったお父様」
苦笑いしながら佳奈子さんはそう言って私に名刺を取り出して渡してくれました。
「裏に番号とアドレスが書いてあるから、困ったときは連絡してね。奈津子でも止められないときもあるでしょうから」
何だか大人の人のアドレスが最近どんどん増えていっているような気がします。
「夕方には帰るけれども、準備につき合えなくてごめんなさい。それじゃまた午後に」
「いってらっしゃい、お母様」
佳奈子さんはにっこり笑って食堂を出て行きました。
現在午前七時半です。
朝食の後、何をするのでしょう?