第百二十三話 再びのお姫様抱っこ
全員で学園の敷地に戻ってきたのは夕方の五時頃でした。
夕食をみんなで取ろうかという話になっていたところへ、奈津子さんが女子寮の方から走ってきました。
「陽向さん、どこへ行っていたの?」
「えっ? ええと生徒会のみんなと理事長宅へ……」
「あら、皆さんこんにちは」
全員と挨拶を交わすと、奈津子さんは寮とは違う方向へと私を連れて行こうとします。
「な、奈津子さん?」
「急いで行くわよ」
「行くってどこへ?」
「私の家に決まってるじゃない」
「え? どうして? パーティは明日の午後よね?」
確か六時からだったと記憶しています。
「ちょっとした手違いがあってね。陽向さんに着てもらう予定だった服が海外に行っちゃったの。それで今から、家にある服にフィッティングを……」
海外にって……どういう手違いがあったらそうなるんでしょうか。
「悔しいけど今からだと私の持ってる服しかなくて……」
「それならレンタルを探すわ。どこかにあるかもしれないし」
前日だから厳しいとは思いますが、一着くらいはあるかもしれないです。
携帯を出して検索しようとした時でした。
「着物でも良い?」
芹先輩が言いました。
湯江さんがハッとした表情で芹先輩を見た後、ニヤリと笑って頷きます。
「一条の着物ですよね? もちろん」
「うん」
「京都からじゃ時間かかりますよね」
「いや、近くに支店があるんだ。叔母がやっててね。今から連絡してみるから待ってくれる?」
「はい」
数分間話をした後、芹先輩はニッコリ笑って通話を切りました。
「大丈夫だって。今から行こうか。車を呼んでくれる? 修斗」
「あ、それならうちの車がすぐ来ますから」
「そう? それじゃお願いしてもいいかな」
「こちらこそ、お願いします。明日の陽向さんの服がかかってますから」
いえ、あの。ちょっと待ってください。
一条の着物って言ってましたよね?
支店ですよね?
レンタル店じゃないですよね、明らかに。
「陽向さん、ぼけっとしてないで行くわよ」
「えっ? いえ、あの」
「陽向、頑張って」
後ろで真琴と真由ちゃんが手を振っています。
二人とも薄情ですよ!
康君と純君が唖然とした顔してるじゃないですか。
「生徒会の仕事が明日の午前中にもあるのよ、奈津子さん!」
「あぁ、それなら大丈夫だよ陽向ちゃん。ボクらがいない時に結構進めてくれたでしょう?」
芹先輩の言うとおりではありますが、それに胡坐をかいていては滞ってしまう可能性が!
「明日は確認作業が多いし、大丈夫だよ陽向」
真琴がいたずらっ子のような顔をしながら笑っています。
「奈津子さん、写真送ってね」
真由ちゃんは明らかにワクワクしている顔です。
二人とも友達を売るんですか!
「了解」
奈津子さんはサムズアップをして、私の腕をつかんだので抵抗をしようと試みました。
ところがです。
「時間がもったいない。修斗」
「わかった」
芹先輩が言った後、上から声がしまして……ひょいと抱え上げられました。
「っ!」
「大門前へ!」
奈津子さんの声が響くと、修斗先輩が私を抱えたまま走り出したのです。
まさかまた修斗先輩に抱えられるとは思ってもみませんでした。しかも今回も走行中。
あっという間に大門へ着いて、私はすみやかに車に乗せられました。
奈津子さんが助手席に乗って、芹先輩と修斗先輩は私を挟むように両側に乗り込みます。
今回も運転をしている久保さんが、その様子に笑っていました。
あの……服が決まったら一旦寮へ戻れますよね?
信三郎さんへのプレゼント、寮にあるんですけど……。