第百十二話 お礼の電話です
寮監さんにお手伝いしてもらいながら、ようやく荷物を運び終えました。
まぁ、それほどあったわけでもないのですが、お土産などもありますからね。
久保さんに送ってもらったので、思ったよりは早く寮に入れました。
軽くお礼を言った後、荷物を運び終えたのできちんとお礼を言おうとしましたら、すでにいませんでした。
慌てて、運転中だとは思いましたが留守番電話に入れておこうと電話をかけますと久保さんが出たので少し驚いて携帯を落としそうになったのは秘密です。
「門のところに戻ったら久保さんがいなかったのでお電話しました」
〔あぁ、お気になさらずともよろしいのですよ〕
「かけておいて何なのですが、今、大丈夫ですか? 運転中では?」
〔いえ、これから二時間ほどは自由時間ですので、片倉さんと食事でもしようかと〕
「え? 片倉さんと一緒なのですか?」
夕食には若干早い時間なのですが、お二人で合わせられる時間がそれほどないのでしょう。
「ちなみに塩ラーメンです」
「いえ、あの。メニューは聞いていませんけど」
とある有名店の名前を教えてくれましたけど、本当に近くの所だったんですね。
「あの、色々と有難うございました」
〔ふふふ、お気になさらずともよろしいと申し上げましたのに。陽向様は本当に律義でいらっしゃる〕
何かいつもより口調違うような気がします。丁寧すぎるというか……。
「久保さん……ですよね?」
何となく確認で言ってしまいました。
丁寧は丁寧なのですが、もっとこう……くだけた感があったはずです。
声は久保さんのように聞こえるのですが、すっきりしません。
〔何だ、あっさりバレタ。結構似てたと思うんだけどな〕
「か、片倉さん!?」
〔もしもし? 陽向様ですか?〕
本物の久保さんに代わったようで、ホッとしました。
「びっくりしました」
〔片倉さんが試してみたいというものですから。あ、ちなみに食べているのは味噌ラーメンです〕
ですからメニューは聞いていません……。
〔お嬢様が以前、食べてみたいとおっしゃっていましたのでね。リサーチがてら来ているわけです〕
奈津子さんなら、もの凄い豪華なラーメンが食べれそうな気がするのですが。
〔陽向さんと一緒に食べたいそうです〕
と言われてしまっては、何も言えません。
でも、貸切になる予感がします。あのお店は、出前はやっていなかったと思いますので。
せめて数時間にして欲しいとお願いしておきましょう。
だんだん慣れてくる感じが怖いです。
「あの、本当にありがとうございました」
〔いえいえ、楽しかったですよ。色々と。次にお会いできるのは御前のパーティの時ですね。またお迎えにあがりますので〕
「ありがとうございます」
バスか電車で行きますと言ったのですが、即座に却下されました。
「では地下鉄では……?」
〔乗り物の問題ではありません〕
分かってましたよ、ええ……分かっていましたけど言ってみたんです。
〔大人しく玄関でお待ちくださいね〕
後ろで片倉さんの笑い声が聞こえました。
そんなに笑わなくても良いではないですか。
分かっています。大人しく久保さんが来るまで待っています。