第百十一話 夏休み最終日です
元の港まで後数時間という頃でしょうか。
荷物も纏め終えて、カフェでまったりな時間を過ごしています。
イベント後に見た幽霊(仮)のことは未だに分かっていませんが、何かを見間違えたのではないかと皆に言われました。でも、確かに私にウィンクしたんですよ?
そうそう、それから最終日になってやっと、奈美さんの親戚だと言っていた男性が、実は警備の人であることを教えられました。
「先に知っていると色々楽しくないでしょう?」
皆さん本当に秘密主義ですよね。
まぁ、楽しませようとしてくれたことには間違いありませんけど。
奈美さんの警護というよりは、参加者の警護だったようです。
「もうすぐ港に着いちゃうわね」
「明日から二学期かー」
奈津子さんも速水君も宿題を終えたようですし、今日はのんびりできますね。
私は寮へ移動しなくてはならないので、色々忙しいのです。一旦自宅へ戻り、用意してから寮へ行きます。
夕方までに入れれば良いとは思っていますが。
他の寮生とは違って一人で荷物を運ぶので、纏めるのが大変なんですよ。
八日も船の旅に行くと知っていれば、行く前に用意してきたのですけどね。
今日はバタバタしそうだなと考えながらアイスティーを一口飲みました。
船が港に到着して、またのご乗船お待ちしております……何て乗員の方々に見送られながら私たちは船を下りました。
私だけ久保さんの運転する車で家に送られ、しかも纏めた荷物を運んでくれるというのです。
トランクに荷物を載せて、香矢さんと千歌さんに別れを告げ……そうなんです今日帰っちゃうのですよ。ハグをして空港までお見送りにいけない事を残念に思っていると、また近いうちに遊びに来るよと言ってくれました。
そして後部座席に乗ったは良いのですが。
隣に幽霊(仮)が座っていたのでぎょっとして固まりました。
「く、くくく久保さん」
「大丈夫ですよ、陽向様。私にも見えています」
そういう問題ではなくてですね!
「御前に頼まれて来た片倉です。職業は一応忍者」
「忍者!」
「いやー、あの時気づかれるとは思ってなくてね。失敗失敗。流石は水崎陽向ってとこかな? だてに修羅場をくぐってないね」
「くぐりたくはなかったのですが」
「ま、そうだろうけどね」
ちなみに片倉というお名前は偽名だそうです。
「幽霊を見てしまったかと思ったじゃないですか」
「ごめんごめん。まぁ、顔を合わせるといっても今日くらいだから。突然現れても敵か味方か分からないだろ? 普段付いている時も姿は見えないと思うし」
つまりは突発的な何かが起こって、姿を現さなくてはならない時に顔を知っていないと困る……ということでしょうか。
「まー。オレが必要になる事は滅多にないと思うけどね。後、風呂とか着替えをのぞく趣味はないんで安心して」
そもそも寮どころか学園の敷地内に入らないし……と教えてくれましたけど。
そういわれると逆に見られている感が出てきちゃうではありませんか!
言われなかったら気づかなかったのに、なんと言うことでしょう。
「見なくても警護できちゃうわけですか」
久保さんが運転しながら聞いてきましたが、ツッコミどころはそこではないですって。
「色々技術があるわけですよ、執事さん。目視の面では君たちの方がたくさん見ていると思うよ」
「見たくないものもございますよ」
「それはオレたちも同じ」
片倉さんが肩を竦めて背もたれに寄りかかりました。