第〇百八話 濡れ衣です
全員の視線が私に集まりました。
それはそうですよね、だってアリバイがないのは私だけですから。
「わ、私じゃ……」
ないと言い掛けて、速水君が私を背中にかばってくれます。
「陽向ちゃんじゃない」
「でも、アリバイがないのは陽向さんだけよ」
「ロイヤルスイートとジムの場所は離れているし階も違う」
「階段は数カ所あるのだから、誰にも会わずに行けるんじゃないかな」
私犯人説が濃厚になってきてますよ。どうしましょう。
奈津子さんをちらっと見ましたら、ニッコリ笑うだけで特に指示はありません。
このまま私が犯人で終わるのでしょうか。
でも、まだ言っていない台詞がありますよ?
「さっき乗員の人に話を聞いて来たんだけど、陽向ちゃんが信三郎さんに言い寄られているのを見たって人がいたよ」
うん、誤解のないように言っておきますが、あくまでもイベントでのことですからね。
皆さん本気にしてませんよね?
疑いのまなざしが痛いです。
「証拠は? 証拠ないよね」
速水君が大きめの声で言います。
少しドキッとしました。
確かに凶器も見つかってないですものね。
「でも、アリバイがないのは陽向さんだけよ」
「ちょっと待って。皆落ち着こう」
何だか皆さんイベントだっていうこと忘れてませんか? かなり真剣なんですけど。
カフェに戻ることになったのですが、一応私は容疑者なので行動を制限されることになりました。
ホワイトボードの時間軸を見ても、確かに私にしか信三郎さんに会う時間はありませんでした。
うーん。なるほど。
そのために皆さんにバトラーさんをつけていたのですね。一人になることがないように。
さてそろそろ次の行動に移ります。
私は出された飲み物を飲むとわざとらしく床に倒れました。
「陽向ちゃん!」
側にいた速水君が私を抱えてくれますが、皆さんの視線がありますので演技とはいえ多少恥ずかしいです。
「まさか毒!?」
唯一さんが叫びましたけど、奈津子さんが手を挙げて制しました。
「毒ではありません」
船医の方がやってきて軽く診察のまねごとをした後、私は睡眠薬のようなもので眠っていることを告げられます。
現在、速水君が私を抱えて医務室へ移動中。
あの……イベントなので本当に運んでくれなくても良いのですけど。奈津子さんにうっすらと開けた目で訴えましたがニヤリと笑われるだけで状況は変わらず。
つまりのところ、お姫様だっこをされています。
奈津子さんがニヤニヤ笑いながら写真を撮っていますので、後で削除依頼したいと思いますが。
父に送っていない事を願います。
医務室のベッドに寝かされて、笹村さんの監視がつくことになり、皆さんは推理を続けていました。
現在医務室には先生と私と笹村さんの三人です。ちなみに船医の先生は諸星さんというお名前だそうですよ。
「あの……起きても良いですよね」
「そうですね。医務室を出ることはできませんが、起きているのは構わないかと思います」
笹村さんの言葉にホッとして起きあがると、諸星さんが台本を取り出しました。船医の先生にまで渡していたんですね、奈津子さん……。
この間に凶器が発見されるはずで、そのことでトリックが徐々に見えてくるでしょう。
笹村さんが淹れてくれたお茶を諸星さんと一緒にまったり飲んで時間が来るのを待っていました。
作者、夏バテにより、数日お休みをいただきますm(_ _)m