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-DAYS-  作者: 中川もえ
1/2

第一話: MY LAST LIFE

―12月18日・くもり―


明日はリナの誕生日だ。もう、18歳になるんだね。でも、俺の中では2人はあの頃のまま、何も変わっちゃいないよ。17歳のまま、時は止まってるんだ。今でも目をつむるとあの頃の景色が鮮明に浮かんでくるんだ。


一年は長いようで短かった。


一年の中でいろんな事がありすぎでとても短く感じたよ。それでも、時は確実にすぎていくものなんだね。


リナにはね、話したいことがたくさんあるんだ。ねぇ、リナ。こっちをむいて俺の話を最後まで聞いて。でも、なんか眠たくなってきたな。最近疲れててあんまり寝てなかった気がする。だから、俺が起きたら話してやるよ。ちゃんと起こせよ?


おやすみ、リナ。


            

−days−

first title: my last life





―12月7日・晴れ―    一年前


「あと1年といったところですかね。」

「え?」


 思いもよらない医師の発言に目を丸くする結人。顔がどんどん青ざめいく。


「若いということで、癌の進行が早かったのです。もう少し早ければ、手術次第で助かったかもしれませんが、彼の場合全身に癌が転移してしまっています。」


 淡々と話す医師に、結人はあまりにも突然すぎて、頭がついていけなかった。言葉の出ない結人に、隣に座っていた少年が口を開いた。


「・・・俺行くわ。」

「ちょっ・・・康!どこ行くんだ!!」


 冷めた声で結人に言い捨てた少年は、結人の子供の康であった。康は医師に目を向けおじぎすると、静かにその場を去った。病院の廊下には康の足音だけが響いていた。

 康のいなくなった診察室はすっかり静まりかえってしまった。鳥の鳴き声が結人の耳をすり抜けていく。いつも聞き入ってしまうようなその鳴き声も今の結人には聞こえなかった。


「あなたはまだお若いですから、こんな経験されたこともないでしょう。動揺してしまうのもわかります。」


 そう医師が言うと結人は口をようやく開いた。


「いえ・・・。僕の妻も癌で短い生涯を終えました。あいつが生まれてすぐに・・・。」

「そうでしたか・・・。」

「・・・皮肉なもんですよね。息子も同じ人生を歩むだなんて。」


 結人の手は汗でびっしょりだった。しかし、結人の握りしめている手にはいっそう力が入る。何かを掴んでいないと結人の精神が暴れてしまいそうだったからだ。


「妻の時は、体が悪いことはわかっていたので命が短いこともなんとなくわかってて、ものすごくつらかったけど、それなりに受け止めることはできました。だけど・・・康は・・・あいつは、昨日もその前だっていつもと変わらず元気だったのに・・・。残りの一年・・・どうしてやったらいいか・・・。短すぎて・・・」


 そこまで言うと結人の固く握りしめていた手に涙がこぼれおちた。太陽も傾きはじめ、オレンジ色の光が窓ガラスから射しこんでいる。その光が結人にはスポットライトのように当たるのだから虚しさを余計に引き立たせた。必死に涙をこらえようとする結人に医師は優しく手を差し伸べた。


「長瀬さん。今の医療技術なら、病気の進行をわずかながらも遅らせることができます。ですが、本人はとても苦しい思いをなさるでしょう。もし、あなたが少しでも長くいきてほしいと願うのなら我々も全力の手を尽くします。しかし、息子さんの幸せを望むのなら、手術を受けず、薬だけの治療になりますが、ご家庭で静かに過ごされるのが精神的にもいいのではないかと思います。こうした治療もあるんですよ。」


 顔を下に向けていた結人はゆっくりと顔をあげた。


「・・・ありがとうございます。」




 


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