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オルたま  作者: naoya
2/2

2:混濁と先生

朦朧とした意識の底で、聞き覚えのある声がこだまする。


”俺は!夢を見続けたいだけだ!”

”そんなの、ただ逃げてるだけでしょ”

”勝手に家を飛び出して、どこで何をしてくれるかと思えば・・・。ほんとうに情けないやつだ、見っともないにもほどがある”

”先生、時間がない。俺の血を使えるだけ使ってくれ!”

”CPR。心肺、停止しました・・・”

”おい、死ぬな!”

”脈はあるが弱過ぎる。背中と耳からの出血もひどい、このままだと大量出血で死ぬ。急げ!止血と輸液準備!何としてもERまで持たせるぞ!”

”救えばいいんだろ、救ってやろうじゃねぇか!”

”何してるの・・・、末彦”

”いやぁああああああああ!私は・・・、私は、そんな立派な人間じゃない”

”お前と一緒なら、どこまででも走っていける気がする”

”殺してくれ、なあ殺してくれよ・・相棒”


「おら、起きろ!」

「へっ、あっうわぁ!」

壮大に椅子ごと転倒する俺。

「痛ってェな~、蹴ることねぇだろ。仮にも俺は生徒だぜー」

「生徒なら生徒らしく、学業に励め!」

バシッ。

教科書で頭を叩かれた。もう踏んだり蹴ったりだ。

倒れた椅子を立て直し、不服な態度を取りながら自席に着座。その際、本音が零れる。

「ちっ、睡眠も勉学うち・・・。っッ!」

「くだらないことを言ったのはこの口か?縫ってやってもいいんだぞ」

速攻で不真面目な男子高校生に制裁が下った。口をつねらている。いつもの如く・・

なのでいつもの如く、その手を振りほどいて口論戦へ移行する。

「裁縫なんて出来ねぇくせに。だから誰にも嫁に貰われねぇーんだよ」

「嫁に貰われないのは、遺伝子のせいであって私のせいじゃないわ!」

「はーん、じゃあさセンセイ。その結婚できない遺伝子でどうやって先生は生まれたんですかー?」

先生は「ふっ」と笑ってウザ過ぎるモデルウォークで教壇まで振り返って、


「私に親はいない!」


と断言。それもしたり顔で言われた。


それからしばらく、時がとまっちゃった現象が起きてから、ようやく俺の思考が再開する。


・・・?

何言ってるんだ、この教師は・・。

事実、先生の両親はこの村切ってのおしどり夫婦で今も村のためにお米を作ってくれている。それなのに、この教師ときたら、都合の悪い事実を捻じ曲げやがった。はー、仕方ない。

俺はこくりと頷き、ほんとうに可哀想なものを見るような目でこう言ってあげる。

「うわー、現実逃避しやがった」

「うっ・・!現実逃避じゃないニョー!」

「ニョー・・・?年増が年齢を考えろよな。そんなこと言っていいのは16までだって」

「私だって16だ!」

「えっ、精神年齢が?あっそれなら納得。昔からセンセイはそんな感じだもんなー。頭なでてやろうか、ミーちゃん」

笑顔でにっこり、宥めるように言ってあげた。

そして先生が震え始めた。壊れたな。うん壊れたに違いない。

「そ・・、そ、そそそ、その呼び方はよせええええええええええええ!」

「よしてくださいの間違いだろ、センセイ」

これぞ主従関係逆転の瞬間だった。むしろ元に戻ったと言った方がいい。

見た目は年増そうに見える美人(?)先生。だけど、後輩で、16歳で、妹分で、秀才で、実習生で、女。

子供の頃はよく頭を撫でてやったが、何の仕返しか、今は俺が頭を殴られ蹴られ罵られている。

「全く可愛がってやった恩を仇で返しやがって、キスしたこともないのに先生面するなよな」

「末彦の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿。私だってチュウぐらいしたことあるわーーーーーーーい!」

バンッ!

あらら、実年齢16歳、精神年齢8歳程度の担任教師は教室を出て行ってしまった。

勿論、俺に謝罪及び反省の色は「全く」ない。

残り約数分で四時限目授業は終了する。

「そろそろ、帰るか」

自席を立ち、教室を見渡してからため息をつく。

この一連の動作が俺の日課になっている気もするが、敢えて気にすると、ここが「ド田舎」だと黙認していることになるのでやめにする。


そして俺が教室から出た途端に、そこは無人となった。


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