不思議な鏡
パパどうしてこんなに帰りが遅いのかな
僕凄く寂しいよ
ママは言います あの人はね家庭よりも仕事が大事なの
パパどうしていつもしかめっ面してるのかな
僕凄く話しかけづらいよ
ママは言います あの人はね誰より自分が大事なの
パパどうして休日ゴルフに行くのかな
僕遊園地に連れて行って欲しいのに
ママは言います あの人はね好きな遊びには目が無いの
パパとママは愛し合っていない
僕はそれが一番辛い
そして二人は離婚しました
十年経ってママの元で成長した僕
あれから一度もパパには会っていません
ママがあの人と結婚しなければよかった
と口癖のように言い会わせてくれないのです
僕はある時思い出しました
パパが「鏡は綺麗に磨きなさい。お前の進む道を示してくれるから。」
と言っていたのを そういえばママはお掃除もろくにしないし僕は自分の顔がママに
段々似てきているのがわかって鏡を見ていませんでした
鏡の前で僕の姿はあの日の面影を残していました
ママとパパが離婚したのはこの僕のせいでした
大好きなパパの悪口をママが言っているのが許せなかったからです
だから告げ口をしました そのすぐ後の事でした
僕は一念発起して鏡をピカピカに磨きました
すると外はまだ真っ暗いというのにヒゲを剃るパパの顔が映りました
次は上司に嫌がらせを言われへべれけになるまで飲まされてうんざりしてる顔
次は鏡に向かって眉間の皺をマッサージしながら笑顔の練習をしている顔
次はまた接待ゴルフかとひとり呟き白い息を吐き出してる顔
パパはいつも僕たちを食べさせる為に必死で働いていたのが分かりました
ママに「ねぇパパがね」と言うと「あの人の話はしないで!」と言われました
僕は悪いのはママの方じゃないかと思いました
この不思議な鏡はどこかに通じているようでした
「もしかしたらパパに会えるかも・・・」
しかし次に映ったパパは昼間からお酒を飲みカップラーメンを食べていました
不健康そうな顔に汚い部屋・・・
僕はパパを救わなくてはと思いました
「鏡さん僕をパパの所へ連れて行って下さい」
鏡は波立ちながら僕を吸い込んでいきました
そこはこの世ではありませんでした
パパはぼろきれを着て岩を運んでいました
パパは僕を見るなりどうして・・・どうして・・・
と泣きました
もう戻れない事は僕にもすぐ理解出来ました
だってここは死者の国なのだから