vol.8*仮病未遂
昨日、家に帰ってきたのは7:00過ぎで、晩ご飯も食べずに寝てしまった。
帰ってきたらもうヘトヘトで、だけど頭の中には優亜がいて…。
学校に行くのが、嫌だった。
優亜に会いたくないから?…それとも…。
朝になった。
窓からは眩しい光が入ってくる。
今日は今月に入ってから一番の快晴という予報で、
それは見事に的中し、4月とは思えないくらい日が照っている。
今の私には太陽の下になんて出る気はないし、学校に行く気もない。
…仮病…使っちゃおっかな。
一日だけなら、きっと神様も許してくれる。
私はそう甘く考えて、布団の中へ潜り込んだ。
―布団の中に入って約15分。
布団を軽く持ち上げて、壁にかかっている苺がいっぱい描かれた時計を見ると、
針は7:20をさしている。登校時刻に間に合わせるには、この家を7:40分に出なければならない。
もうすぐお母さんが起こしに来るだろう。
…すると、ドア越しに階段を昇る足音が聞こえた。
その音は少しずつ駆け足になって…そして、私の部屋にたどり着く。
ドアをガチャっと開ける音が聞こえたので、私はとっさに布団に潜り込んだ。
「智!起きて!学校に遅刻するじゃないの!」
ほら。
やっぱりお母さんだ。私が自分で起きられない時は、絶対来てくれるよね。
そんなお母さんは、必死に智、智と連呼しながら私を布団ごと揺さぶる。
「ん…?あ、お母さん…どしたの…んんーっ。」
私は何もなかったように今起きたフリをして、かったるそうに目を細める。
「何言ってるの!学校よ!登校時刻!」
私は壁の時計を見た。もちろんわざと。
「あぁ…ねぇ、なんか頭痛いみたい…。」
私はおでこに手をやった。
「何言ってるの?それより早く支度しなさい!」
「ふぁーい。けど痛いよ…。」
私はお母さんの目を見つめる。
そしてお母さんは、私の事をにらむ。
「あーもうっ!うるさい!うるさい!何?熱でもあるっていうの!?」
お母さんは着ているエプロンの裾で、雑巾を絞るような仕草をしながら言った。
私も頭を抱えながら言った。
「熱はあるかわかんない…。けど…」
「けど何!?」
お母さんは朝から怒鳴りっぱなしだ。
「あぁもうっ!絶対仮病でしょ!わかるんだからね!
そんなこと言うなら自分で測って見なさいよ!体温計のある場所わわかるでしょ!?」
これこれ♪この言葉を待ってたんだ。
「うん。リビングの電話の乗ってる戸棚の…えっと、2段目?
そこまで行けなーい。代わりにお母さん取ってきてー。」
お母さんは大きなため息をつく。
「もう40分じゃないの。もう…、しょうがない子ね。
その代わり熱がなかったら、遅刻してでも学校に行かせますよ!」
「…ふぁーい。」
お母さんはスタスタと音をたててリビングのある1階へと階段で降りていった。
―2,3分後。
「ほら、自分で測りなさい。
お母さんはお父さんの支度もしなくちゃいけないから、下へ行ってるよ。」
「はぁい。」
お母さんがドアを閉めたのを確認したら、私は手で体温計の先を擦り始めた。
こうすれば、摩擦で温度が上がると、前に先輩から聞いた覚えがある。
成功するかわからないけど…。
約30秒擦り、体温計の小さな画面を見たら40℃にまで上がっていた。
40℃は…、さすがに嘘くさいし、だめだなぁ。
しかも、次の瞬間、なぜだか『エラー』の表示も出てしまった。
私は一旦、自分の脇に体温計をさし、本当の体温を測ることにした。
『ピピッ』
計測完了を知らせる音がなった。
画面には…37.8℃。
何これ、微熱じゃん?っていうか普通に熱あんじゃん。
自分では頭痛いとか、お腹痛いとかそういう意識は無いのに…。
休みたいって強く思っていたら、本当に熱があった。
こんなに虫のいい話あるのかな…?
私は熱をくれた神様に感謝し、そっとため息をつく。
良かった。今日は優亜に会わなくて済む。
友達を契約しなくて済む。
私はそう考えていた。