vol.6*試合観戦〜part2〜
優亜は私の服の裾を掴んでハァハァしている。
「バス出てなくてぇ…走ってきたし…。」
…走ってきた?
バスに乗っても20分近くかかるのに、だからこんなに遅かったんだ。
「…あ、いたっ!見て智華っ!あれあれ〜、あたしの彼!」
優亜は休憩中の男の子たちを指さした。
「あ、よくわかんないか。待って、レモン〜!あげてくる!」
優亜は女の子たちの向こう側へ行って、手を口にあて、大きな声で言った。
「隆一ぃぃ!そっち行ってもいいー?」
…優亜の彼氏は隆一だったんだ。
他の女の子たちの痛い視線を浴びながらも、
優亜は走って男の子たちの方へ行った。
私の隣では女の子たちからの優亜への悪口が聞こえる。
「みなさーん♪隆一の彼女の優亜でーす♪みなさんレモンをどーぞ!」
この一言に、隆一狙いの女子みんなが凍りついた。
他中に彼女がいたなんて…おそらくそんな気持ちだったであろう。
優亜は持っていたタッパーを開け、北中の男子に配っていった。
優亜のレモンは大好評のようで、タッパーはたちまち空になった。
隆一狙いの女の子はみんなで帰っちゃったし、
優亜は男子に混じっているし、私は一人ぼっちだった。
少し後ろに下がって、芝生に三角座りをすると、
後ろからだれかが私の肩を叩いた。
「わっ!」
私の肩を叩いたのは、なんと聡くんだった。
「やっほ♪来てくれたんだ。」
聡くんは、私の隣に三角すわりをした。
「あのさぁ、北中の奴ら、岡村のレモン食ってるみたいだけどさぁ…、
片瀬はなんかねぇの?…差し入れ…。」
聡くんの頬がどんどん赤くなってゆく。
私の頬も、それにつられて赤くなってゆく。
私はニコニコしながらい言った。
「…もちろんあるよっ!私のは…聡くんだけのために…」
聡くんの頬が赤くなってゆくのは止まらない。
聡くんの耳も赤く染まってゆく。
「…おうっ。」
私は持ってきたトートバッグから水色のタッパーを出した。
私は無言でふたを開け、無言で聡くんに差し出した。
聡くんはレモンを一枚つまんで、ゆっくり口に入れた。
「…うまい。」
私のドキドキは最高潮で、今までにないくらいの高鳴る胸の鼓動に包まれた。
私は聡くんの一言に、笑顔という形で返事をした。
その時、私はどこからか苦しい視線を感じていた。