vol.15*先輩の過去〜part7〜
途中、通学路を歩いていると、
体育館に繋がる通路から、バレー部の人たちが見えた。
真琴は歩きながら、ゲラゲラと笑いながら話す部の先輩たちを見ていた。
すると、運が悪いことに、部員の一人と目が合ってしまった。
真琴と目が合ったのは亜矢奈。
亜矢奈はわざと真琴に聞こえるように、
「ねぇねぇ!あっちであたしらのコト見てる人が居るんですけどー!」
と他の人に言った。
すると、部の人たちの視線は真琴に集まった。
「てゆうか、朝練サボったくせに、あいつ学校までサボる気じゃね?」
「まじめで可愛い後輩と思ってたんだけどぉ、ウチらの事ジロジロ見ないでくださぁい。
顔に何かついてますかぁ??」
部員の一人が言いながら自分の顔を指差すと、みんなはまたゲラゲラ笑い始めた。
通路を歩いていたのは、ちょうど3年の真琴の事をいじめる先輩たちで、
その中でもリーダーだった亜矢奈は周りに人がいなく、真琴をいじめる大チャンス、と思っていた。
「やっちゃおうよ。」
亜矢奈が言うと、他の部員たちは
「いいよ♪」
「OK!」
と真琴のもとへと、近づいてきた。
真琴はその場で後ずさりしたが、部員たちは足早に真琴のもとへ集まり、後ろにさがれなくなった真琴は先輩たちに囲まれた。
先輩たちは…ニヤニヤしながら真琴を見ている。
「前からさぁ、お前の事がウザくてさぁ、ウチらの前から消えて欲しかったんだよね。」
そう言った部員の一人が真琴のすねを蹴る。
「…痛っ…。」
真琴は小さな声でうなった。
「はぁ?何が『痛っ…』だよ!黙ってろよ!キモいんだよ!」
そう言って、また部員の一人が真琴の右頬を思いっきり叩いた。
「…っ…」
真琴が下を向いていると、冷たい涙が頬を伝った。
冷たい涙が伝っても、叩かれた右頬は腫れ上がり、真っ赤に手形がついた。
「お前らずりーよ!アタシにもやらせろ!」
亜矢奈はそう言い放ち、次に真琴を叩こうとしていた部員の手をはらった。
「消えろよ!」
亜矢奈はそう大きな声で言い、真琴を叩こうとした。
パンッ!
…鈍い音がした。
けど、なぜだろう…。
真琴の頬は痛みを感じなかった。
そして真琴は、恐る恐る上を向いた。
「…先輩…?」
亜矢奈は、真琴ではなくエリナの頬を叩いた。
エリナは、真琴がなかなか来ないから戻ってきたようだった。
「てめぇ、何エリナ様のこと叩いてんだ!?死にてぇのか!?」
エリナは、痛々しい頬を放っておいて、無我夢中で亜矢奈の胸ぐらを掴んだ。
「おい!なんか返事しろよ!お前コイツに何したんだよ!」
エリナは青いカラコンの入った目を大きく開いて亜矢奈を精一杯睨んだ。
「…」
エリナの迫力のあまり、亜矢奈はつい黙り込んでしまう。
「お前、あたしのダチに何やってんだよ!見てみろよこれ、真っ赤じゃん!」
エリナは真琴の頬を指さす。
真琴はエリナの迫力に、怖くて思わずその場に座り込んでしまった。
亜矢奈は下を向き、相変わらず黙ったままだ。
「おまえにも、こいつと同じ苦しみを味あわせてやるよ!」
そう言うと、エリナは亜矢奈の顔を掴み、
無理やり上を向かせて思いっきり亜矢奈の頬を叩いた。
周りにいた部員たちは、怖がってガクガクと震えている。
「お前ら、覚えてろよ。エリナ様を殴った罪は、一生消えねーぞ!」
エリナはそう言い放ち、足元に置いてあったスクールバッグを背負った。
亜矢奈はその場に倒れ込んだ。
「おい真琴、早く行かねぇと。」
真琴は、今までに起こった、漫画や小説の中の一部のような出来事に驚きを隠せなくて、
その場から立ち上がれなかった。
その場に居合わせた部員たちも真琴と同じで、
その場でエリナと亜矢奈のことを見比べていた。
「おまえら、人の事をジロジロ見てんじゃねぇ!早く教室帰れ!」
エリナが怒鳴ると、亜矢奈を除く3年の部員たちはサッと走っていった。
「おまえも帰れよ!」
エリナは亜矢奈の頭を軽く蹴った。
亜矢奈はもう子供のように泣きじゃくっている。
真琴はそれを見て唖然としていた。
「お前も行くぞ!ほら、立て。」
するとエリナは真琴の手を取り、真琴のことを引っ張った。
真琴が立ち上がると、タイミングよくエリナの携帯が鳴った。
♪ピロリローン
エリナは真琴と繋いでいた手を振りほどき、スカートの右ポケットから携帯を取り出した。
「もしもしー?あれー、健じゃん?」
『おう。エリナ?おせーよ。約束の時間過ぎてんぞ?』
「あぁゴメン。ちょっとトラブったからさ。」
『とにかくさぁ、こっち…みんな揃ってるし、石井来て…るみたいだよ?
なん…か早速イ…チャついてる。』
「…誰と?てゆうかそっち電波悪い?なんか声が途切れてるよ。」
『…………わ…りぃ、電波悪…いみた…いだか…ら!』
プツッ
電話が切れて、エリナは携帯の画面を見た。
向こうの電波が悪いようだ。
エリナは携帯をポケットにしまって、せかせかした様子で歩き始めた。
それに続いて真琴も歩き始めた。
亜矢奈は…、泣きながら教室に戻っていった。