vol.9*先輩の過去〜part1〜
熱はあっても、私はとても元気で、本当に仮病のように思えた。
お母さんは昼間パートに出るので、私は家の中で一人だった。
暇だった私はパソコンを立ち上げ、同じ部活だったの先輩のブログを見てみる。
…言い遅れたが、私は部活をやっていた。バレー部である。
吹奏楽や美術など、おとなしくするものは私には向いてないし、
ソフトボールやテニスなど、基本、外で活動する部も嫌だ。
サッカー部や野球部は論外で、残されたのは水泳、演劇、
バスケット、バレー、そして帰宅部だ。
水泳は全く無理。
数メートルも泳げない。
未だに潜る事で精一杯。
演劇とバレーは男女混合だから嫌だ。
本当は、帰宅部が良かったのだが、私には「帰宅部は虐められる」という印象があり、
また、兄や姉がいる同級生の子も帰宅部は進めなかった。
そしたら、残りはバレー部だった。虐められない為に入った部活も、
今では楽しくてしょうがなくて、ほぼ毎日休まずにやっていた。
その中でも、晴れて今年から高校生の井口真琴先輩は、
後輩に優しくて、先輩とも仲良くて、友達がいっぱいいて、私から見ても、
他の友達から見ても憧れそのものだった。
これは私が一方的に思う事だがたぶん、真琴先輩は部で一番の努力家だっただろう。
真琴先輩はちょっとぽっちゃり系で、運動も得意な方ではなかった。
だがその分他のメンバーより頑張っているから、いつもレギュラーに選ばれたんだ。
真琴先輩のブログはほぼ毎日更新されていて、私はたまに気が付いた時にブログを見る。
『ついに彼氏が出来ましたぁ♪』
見出しにはそう書かれている。
真琴先輩、彼氏できたんだ。
おめでとう。
私は先輩の、こんな過去を知っていた―。
――去年の6月。私が部活にやっと慣れて来た頃だ。
当時3年生だった真琴先輩は、隣のクラスに彼氏がいた。
真琴先輩の彼氏は生徒会長だった梅沢くん。
梅沢くんは性格も良く、顔もよく、運動もできれば頭もいいという、完璧な男だった。
が、後から気付いた事なのだが、最低な女ったらしだった。
未だになぜ私だったのか疑問なのだが、
真琴先輩は私に『彼の誕生日プレゼントを一緒に買いに来て欲しい』と言った。
私は、生まれて初めての先輩からの誘いだったので、嬉しくて嬉しくてもちろんOKした。
次の日、電車に揺られて30分。
大きなデパートに行って、私と真琴先輩はプレゼントを選んだ。
私はほぼ付き添いで、いる意味も無くて、ほとんど会話もなかった。
話したことといえば、
何でバレーに来たの?部活楽しい?とか、バレー部のことくらいだった。
相手は先輩だったので、自分から話を切り出すことも出来なかった。
そして買ったのは香水だった。
まだ中学生になって間もなかった私は、真琴先輩のことを大人だなぁ、と感心した。