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コンセント

作者: 辻内英祐

壁に、2つ、穴が開いています。それは、プラグを差し込む穴です。



僕の部屋には、コンセントが3つ有ります。1つは勉強机の後ろに、もう一つはテレビの後ろに、最後の一つは、天井近くの壁に有ります。

天井近くの壁に有るコンセントは背伸びをしても届かない程、高い所にあるので、まだ1度もプラグを差し込んだ事はありません。



僕は最近、やたらと、天井近くの壁に有るコンセントが気になって、勉強、テレビ、読書…何をしている最中でも、ふと、そのコンセントの方へ目を遣ってしまいます。



ある日、僕は、遂に、そのコンセントに対する、得体の知れない欲望に負けて、壁の前に椅子を置くと、椅子に上って、そのコンセントをじっくりと観察してみました。

それは、何の変哲も無い、ただのコンセントでした。



そうして数分、椅子の上に立って、ぼんやりとコンセントを眺めていると、ふいに、縦長の2つの穴に触れてみたくなりました。

右の穴と、左の穴、どちらに触れるか迷いましたが、結局、右の穴に触れてみることにしました。



触れてみると、人差し指が縦長の穴に食い込んで、そのまま、穴の中へ吸い込まれてしまいそうな気がしました。と、どうやら、本当に吸い込まれているようでした。



右手の人差し指から、腕、頭、胴体、そして、左足の親指…案外、簡単に吸い込まれたので、驚きました。



先程、僕が吸い込まれた、2つの穴から、少し光が漏れています。

今僕が立っている、薄暗いこの場所は、僕の部屋の壁の裏側ということになります。



「辻内君」



と、ふいに、誰かに僕の名前を呼ばれたので、心臓が、ドキッ、としました。



「辻内君」



声のする方を、振り返ると、すぐ目の前に、見知らぬ男が立っていたので、また、ドキッ、としました。



「ここは壁の裏側だよ。信じられない事に、本当に壁の裏側なんだ。驚いただろう?」



ここが壁の裏側だという事よりも、見知らぬ男が、僕の部屋の壁の裏側に住んでいた事のほうが驚きでした。



「さて、それでは早速、壁の裏側を案内しよう。

ここは、いつも、薄暗いから、このランプを持って…そう、ほら、明るいだろう…。」



オレンジ色の光が壁の裏側を照らしだしました。



机、椅子、本棚…



「この場所は非常に静かだからね…僕の書斎なんだよ。」



本棚には、たくさんの本が並べてありました。



「辻内君」



僕は、とても本が好きだったので、本棚の本に気を取られていました。



もう、ずっと向こうの方で、男が、僕を呼んでいる声が聞こえたので、ハッ、として、声のした方まで走っていきました。



「この階段を降りて行くと、辻内君の部屋の、丁度、テレビの後ろだよ。」



男の後ろについて、階段を降りていくと、ガシャンガシャン、と音が聞こえてきました。



「プラグを差しっぱなしにすると、プラグに電気を送る装置がずっと稼働しているので、とても煩いんだよ。今は、テレビが切れている状態だからまだマシだけどね…テレビの電源をつけると、もっと電気が必要になるからもっと煩いんだよ。」



なんだか、とても申し訳ない気がしました。これからは、テレビを見ない時は、ちゃんとプラグを抜こうと思いました。



「辻内君」



名前を呼ばれたので、ハッ、としました。僕は、一人でぼんやりと考え込む癖がありました。



「このまま、まっすぐ行くと、丁度、勉強机の裏側だよ。」



僕は男の後ろについて歩いていきました。勉強机の裏側に着くと、ふわふわした、綿のようなものが、そこらじゅうに敷き詰めてありす。



と、鼻がムズムズしてきました。



「これ以上、ここにいると、僕も、辻内君も、鼻がムズムズしてしまって、耐えられなくなるから、引き返そうか…。ここは、僕が、いくら掃除しても、こうなんだよ…。」



僕はまた、申し訳ない気持ちになりました。ふわふわした、綿のようなものは、全て、ホコリでした。



これからは、部屋の隅々まで、ちゃんと掃除しようと思いました。



「辻内君」



僕は、ハッとしました。

声のする方を振り返ると、男がすぐ目の前に立っていました。



「お願いがあるんだがね…。」



男は、更に僕に近付いて言いました。



「辻内君は、最近、やたらと、僕の書斎…いや、天井近くの壁に有るコンセントが気になっているようだね。

僕は毎日、君が、このコンセントに、何かのプラグを差したがっているんじゃないかと…コンセントは本来、プラグを差すものなのだから…いや、つまり、僕のお願いというのは…」



僕は男のお願いが何か、よくわかったので、うんうんと、笑顔で頷くと、男は嬉しそうに笑いました。



「それでは、辻内君、約束だよ。僕と辻内君の秘密の約束だ。」



そうして、僕と男は、書斎まで戻ってきました。

僕は男にお別れの挨拶をして、縦長の穴に触れました。今度も、右の穴に触れました。



僕は自分の部屋に戻ってきました。

そうして、早速、テレビのプラグを抜きました。



天井近くの壁に有るコンセントは背伸びをしても届かない程、高い所にあるので、これからも、プラグを差さないことにしました。



秘密の約束を僕はちゃんと守ろうと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 斬新でほのぼのとした切口語られる話は、なかなか面白かった。教訓めいた感じがあったが、巧くそれを隠せていたと思う。技術的にもなかなか良かったと思う。
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