第二話
冬枯れのプラタナスの並木道に面した喫茶店で蘭と会うことにした。
彼女は駿の話を聞いて、昔スペインの森で聞いた風の話をし始めた。
「風の音っていろんな声が混じっているようなときがあるわ」
「ぼくの場合は風の音じゃない」
「でも音として聞こえるのでしょ?」
「カッキュンカッキュンと響くように伝わってくるんだ」
「動物の鳴き声かしら」
「でもなさそうなんだ」
時々、喫茶店のドアの鈴がチンチンと鳴って若者やサラリーマンが這入ってきた。もうすぐクリスマスを迎えようとしていたので店内の片隅に小さなクリスマスツリーが飾られていた。
「スペインの森の風って人の話し声がするのかい?」
「そう」
「気のせいじゃないの?」
「でもするんだもの」
「……」
まわりの若者の話し声やサラリーマンの新聞を広げる音だけがしばらく二人を包み込んでいた。しばらく駿は外のプラタナスの並木通りを眺めた。
「ねえ、なに黙っているの?」
何かが駿の耳の奥で聞こえてくるような気がしていた。
「さっきから音が聞こえるんだよ」
「どんな音なの?」
「すごく澄んだ音みたいな…」
駿の眼は喫茶店のガラス張りからまっすぐのびるプラタナスの並木道の遙か彼方に注がれていた。
「まるで明珍火箸の風鈴のような響きなんだ」
「風鈴の音なの?」
やがて駿は並木道からだんだんとこちらに近づいてくる人影を見た。
その男は背が高く黒マントに黒の山高帽、そして手にはステッキを持っていた。